【VOICE】農村漁村で生産者と交流 雨風太陽代表取締役 高橋博之氏


雨風太陽代表取締役 高橋博之氏

観光資源を共に守り育てるパートナーに

 私たちの会社が一昨年から始めた「ポケマルおやこ地方留学」は、これまでの消費型観光から脱却を目指す一歩だと考えている。夏休み、岩手や和歌山をはじめとする全国12カ所の農山漁村を舞台に1週間、親は自然豊かな環境でワーケーションしながら、小学生の子供は農家と漁師の生産現場で自然を濃密に体験する。

 体験アクティビティの内容を一部、紹介しよう。プロのハンターの鹿狩り同行だ。夜明け前に猟師の車で千メートル級の高原に向かい、猟場に到着すると忍び足で鹿を探し始める。鹿を目視で確認し、ライフルで頭を狙い、引き金をひく。命中しても鹿は脳死状態にあるので、鹿が倒れた場所まで行き、ナイフで首もとの動脈を切り、血が大量に流れ出る。それを猟師の脇で子どもたちが見つめている。絶命した鹿の四本脚を子どもたちが持ち、軽トラまで運び荷台に乗せる。加工場まで下り、つるし上げ、皮をはぎ取り、枝肉に加工する手伝いもやり、最後はそのお肉を焼いて食べる。都会では決して体験できない、一流の田舎ならではの究極の食育だ。

 他にも、漁師の漁船に乗せてもらい、ホタテの養殖現場を見学し、殻に付着した雑物を除去する作業を手伝ったり、米農家とライフジャケットを着て川下りをしたり、野菜農家のところでは目の前の畑で採った野菜でカレーやピザをつくって食べたり。あっという間の1週間のプログラムが終わると、「東京に帰りたくない」と泣いてしまう子どもまでいるほど満足度が高かった。

 日帰りや1泊の体験型観光とは違い、1週間もいると生産者との関係性ができるので、都会に戻った後も、お米を買うならあの農家さんから言い値で買うという継続的な付き合いになる。さらに翌年もまたあの農家さんに会いに行きたいとなり、そこが第2の故郷のような場所になっていく。

 日本は、都市が地方を消費するだけの観光から脱却するときだ。そうしなければ、農山漁村などの地方の観光資源を維持することは難しくなる。なぜなら、過疎高齢化が著しく進む地方において、観光資源を維持するために必要な人間がいなくなってしまうからである。

 生産者と交流し、生産現場に関わることを通じて、生産物やその土地の価値を理解し、共感することで、単に観光資源を消費するだけの消費者から、観光資源を共に守り育てるパートナーになっていく。日本の観光は、地方の自然資源を巡るバランスを著しく欠いた受益と負担の関係に踏み込むことが価値になるフェーズを迎えている。


雨風太陽代表取締役 高橋博之氏

 
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