次世代へつなぐための産学連携を
今年の4月にJTB総合研究所から大学に出向し、観光概論を教えている。初年度でもあり、授業準備や周辺業務に多忙を極めるが、教えることで学び直しの機会になり、学生との交流は、当校は小規模校で学生との距離が近いこともあり、自身の研究テーマ「生活者の価値観と旅行行動」について深耕を図る場になっている。若い感性による学びも多い。怒涛の前期を終え、雑感を述べたい。
現在の大学4年生は、2020年の入学と同時に新型コロナのパンデミックとなり、約3年間、授業や部活などリアルなキャンパスライフの制限を受けながら、就活や卒業研究の時期に入っていった学年である。本来、大学時代は自らの意思に基づく自立した行動で経験値を上げ、意思決定の判断材料を蓄積する期間であるべきと思うが、同じZ世代でも上の年代より得られる経験値が少ない特異な一面を持つといえる。コロナ禍の旅行は常に20代がけん引してきたが、平常時よりは少なく、授業で観光や運輸に関わる有名企業ブランドや利用を聞いたら意外と知らなかった。これが世間の大半の学生の実態だろう。
就活は、インターンも希望通りに行けない期間があったが、今年は一般的に堅調だ。観光産業に限れば人材不足を反映してか、当校も著名なホテルの内定が多く決まっている。社会への覚悟と常識と身に着けて送り出したいが、受け入れる側にも、新型コロナの影響を受けた学生生活を挽回できるよう、魅力的なキャリアパスにつながるよう育成してほしいと思う。
異動して、日本の大学を取り巻く環境の厳しさを実感する機会にもなった。文科省の「学校基本調査」によると、大学の数は2023年5月速報値で810校、うち私学は622校だ。国公立は2000年比で17校増えたが、私学は144校30.1%増加だ。新入生の募集を停止する大学も現れる中、教育も抜本的改革が求められている。観光人気と聞くが、リクルートの進学サイトをみると、観光学は必ずしも人気学問上位ではない。親や高校教諭の話を聞くと、就職先など具体的な掴みどころがなく、コロナ禍の経験に不安を持つ人もいる。
解決の糸口の一つに産学連携があるのではないか。従来の観光振興の分野に企業が教員やカリキュラムを提供するだけではなく、生産性向上、キャリアパスなど業界の内政的な課題を他産業のように共同研究する機会、改善のしくみを作ることも必要と感じる。一方で地元企業には大学の観光教育に積極的に関わってもらう。盤石な業界、大学づくりに、垣根を超えた往来が必要だ。
西武文理大学 教授・JTB総合研究所 客員研究員 波潟郁代氏