【VOICE】現代湯治 宮城県・東鳴子温泉 旅館大沼 五代目湯守 大沼伸治 氏

  • 2022年9月9日

大沼氏

2泊3日で余白をつくる

 現代の多くの人々は忙しく、常に仕事や家事に追われている。さらにコロナ禍やウクライナでの戦争など、社会情勢の不安定さも日常生活に大きな影を落としている。そうした混迷の時代を生き抜くために人々には何が必要なのだろうか?

 一つは、日常から逃れ、自己を回復させる空白の時間を持つことだと思う。現代人は睡眠以外、切れ間のない時間を過ごしている。特に世界中にめぐらされたオンラインの功罪は大きい。命の糧を得る食事時でさえ、スマホを見ながら食事をするのは普通のことで、風呂にまでデバイスを持ち込む人もあるという。ここまでくると、必要に迫られてネットをするというよりは一種の中毒的症状である。程度の差はあれ、多くの現代人は老若男女問わずこうした状況に陥っている。

 日本は世界でも有数の温泉大国である。それは、この国が火山国であり、その7割を占める豊かな森林が水を作り出しているからだ。温泉は古来から神の力を宿す水として人々に大切にされてきた。医者も薬も発達していなかった時代では、温泉の癒やす力に神の息吹きを感じたことは想像に難くない。

 かつて農民や漁民は農漁閑期に温泉地に赴き、湯治を行っていた。旅館大沼も120年ほどの歴史を持つ湯治宿だ。太平洋戦争後、高度成長に沸いた日本社会では農民たちもすこぶる元気だった。昭和40年代には、あふれかえる湯治客を収容するために鉄筋4階建ての施設を建築した。祖父と父が永遠に続くかのような繁栄を夢見て建てた記念碑ともいえる。

 今、「湯治」に対する認識はかつて行われていた時代遅れの保養形態か、湯治自体を知らないかのどちらかだ。戦後の高度成長期、バブル崩壊、失われ続けた時代を経て、日本人は湯治の意味や温泉の本質まで失ってしまったかのようだ。しかしこのことは、時代に合わせて湯治をアップデートしてこなかった私たちの責任でもある。

 日常に余裕を欠き、混迷の時代を生きる現代人にこそ、湯治をしてほしい。それは昔のような2~3週間を要する自炊湯治ではなく、食事を供する2泊3日からの現代湯治だ。1泊では自分の中に余白を作ることはなかなか難しい。中1日、何もせず自分の時間を過ごすことで心のベクトルが自分の内側に向く。大自然そのものである温泉に、自然の一部である人間が浴して心身を再生する湯治には自然に寄り添い生きてきた、日本人のこころと知恵が凝縮されている。

大沼氏

 
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