観光業界の明るい未来を確信
ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。世の中は絶えず変化をしており止まることを知りません。コロナ禍においてわれわれの生活は一変しました。しかしコロナによって社会が変容するのではなく、これまでの変化が加速したにすぎないと感じています。
利己的な自由競争と急速なグローバル化が格差と分断を助長しました。デジタル技術の進展は人々の生活や行動様式を大きく変えようとしています。そうした中で社会のゆがみが各地で紛争の火種を起こし、世界は従来の価値観に代わる新たな秩序を模索し始めているのです。
観光分野はこれからの時代が求める要件を備えた有望な未来産業であると思います。苦境が続く現在において将来を展望することは時期尚早かもしれませんが、「観光には未来がある」と確信しております。
不確実性の高い21世紀は「世の中の不安から守ってほしい」「不安から解放されたい」という要求に応えるため、全ての企業と国家は「保証(保険)」と「気晴らし(娯楽)」の二つの要素の周辺に組織されるといわれています。観光はまさにその中心に位置します。AIやロボティクスが進化しても、われわれが携わる心の機微に触れるヒューマンタッチの仕事はなくなりません。昨年、観光業界のオペレーション力が機動性とホスピタリティにおいて卓越していることが観光以外の分野でも実証されているのです。
また、社会は「人」で成り立っています。企業は市場のニーズに応えて利益を得るだけではなく、人々に役割を与えその成果に報酬を払う「雇用」を生み出しているのです。コロナ禍では命を守るための取り組みが最優先の事項となりましたが、人々の生活を維持するための「雇用」や「収入」の重要性も再認識されたと思います。観光業界は雇用規模(700万人)が大きく、裾野が広くて多様性に富んでいます。地場密着産業が主体であり、地域創生への貢献も高いのが魅力です。
しかしながら時代の変化に対応するのは並大抵のことではありません。既存のビジネスを重視するあまりにほとんどの企業が革新を果たせないのが実情です。幸か不幸かわれわれの既存のビジネスが消滅し、図らずして観光業界の仲間の多くが新たな領域での一歩を踏み出し始めています。
観光の分野には、市場の根源的なニーズ、社会の根幹となる課題の解決、革新の契機の三拍子がそろっており、明るい未来が待ち受けています。将来を見据えて、観光に集う事業者の皆さまが現在の難局を乗り越えていただくことを願ってやみません。
喜田氏