【VOICE】宿泊施設のマーケティング戦略 はたらく堂 社長(全旅連アドバイザー)羽室文博氏


羽室氏

「クロスSWOT分析」の採用を

 年初からのオミクロン株流行により、観光業界復活の期待はもろくもくじかれました。政府の観光支援策「Go Toトラベル」事業も、再開時期が全く見えない状況です。

 私は、2020年に全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)のアドバイザーを拝命し、この2年間、コロナ禍にある宿泊施設さんの声を集めて、政策提言に反映するお手伝いをいたしております。

 直近のヒアリングでは、経営継続のための金融関連の課題が多くなってきました。コロナ禍が始まって以来、実質無利子・無担保の特別融資を利用された宿泊施設も多いはずです。ここ数年間は、訪日外国人旅行者への対応もあり、宿泊施設の借入は増加傾向でした。そこにコロナ特別融資が加わったため、負債が膨らんでいます。東京商工リサーチ調査では、2020年3月期の借入金は、月間売上高の8.5カ月分でしたが、21年3月期には22.8カ月分に拡大しているとのことです。

 全旅連では、債務問題への対応策を、政府をはじめ、さまざまな機関に「緊急要望」として提言しています。いずれコロナ禍が沈静化し、再び多くのお客さまを迎える際には、資金が必要になるのは明らかです。金融機関の融資姿勢が保たれることを祈るばかりです。

 一方で、宿泊施設側も事業計画の見直しが必須になっています。私は中小企業診断士として経営支援活動もしていますが、さまざまな場面で「王道のアプローチ」が重要であることを改めて認識させられます。青臭い話と言われるかもしれませんが、ビジネス・フレームワーク(思考のための枠組み)による点検をお勧めします。

 特に、マーケティング戦略を立案・実行する際には、組織内外の環境を把握して市場機会を発見する、「S(強み)W(弱み)O(機会)T(脅威)分析」が大変有効と考えます。自社の強みと弱み、外部環境の機会と脅威を具体的に列挙し、強み×機会(積極戦略)、強み×脅威(差別化戦略)、弱み×機会(改善戦略)、弱み×脅威(撤退・縮小戦略)という四つの枠組みごとに選択肢を検討するものです(クロスSWOT分析)。

 コロナ禍後の宿泊市場を想定しながら新たな戦略・方針を立てる際に、ぜひ採用していただきたい手法です。宿泊業経営者として、自社のことも環境も熟知されていることでしょう。さらにこのフレームワークで、幹部の皆さんとともに分析を深めて方針決定をされれば、その後の事業計画案がより充実したものになるはずです。

 金融機関とのコミュニケーションが重要になる時期でもあります。アフターコロナのための準備が急がれます。

羽室氏

 

 
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