旅行動向を可視化、兆しに対応
新型コロナウイルス感染症の流行は、観光産業の不確実性を一段と浮き彫りにしました。未来予測が難しく、先行きの不透明感が増しています。そこで重要なのは、予測精度ではなく、反応速度を高めることです。兆しを発見したら即座に対応し、成功の機会を捉え、ネガティブな事態が発生した際には損失を最小限に抑える取り組みが鍵となります。
このためには観光統計のデジタル化が必要です。私は10年以上にわたり、旅行者の動きを可視化する位置情報データを活用し、東日本大震災後の旅行自粛からオーバーツーリズム、コロナ禍など、多くの課題に取り組んできました。その経験を踏まえ、日本観光振興協会のホームページで一部オープンデータとして提供されている「デジタル観光統計」を開発しました。
本統計は、ブログウォッチャーが提携する140以上のスマートフォンアプリから、利用者の許諾に基づき取得された位置情報データを用いて、観光客数を計測しています。データの信頼性が認められ、観光庁の観光統計調査要領で、国の観光入込客数統計の代替として紹介されています。「デジタル観光統計」は、従来の観光統計手法では結果が出るまでに約2カ月かかっていたものを約10日で把握することができます。最大2千カ所の観光スポットごとの来訪人数を日別・時間別にモニタリングし、変化の原因を分析する機能も整えています。
「デジタル観光統計」の利用者はすでに、自治体など500団体を突破しています。一方で、兆しへの反応速度を高めるには、単にデータを変えるだけでなく、計画から対策までといった、一連の流れの不確実性に対応する視点を持つことが重要です。これには時間と労力がかかりますが、先進的な地域を中心に、全国で成功事例が生まれ始めています。
例えば、広島県のみよしDMOでは来訪者数の推移や、観光スポットの分析を行い、観光関連施策を効果的に実施しています。また、沖縄観光コンベンションビューローでは、このデータを基に観光客や県内客の動きを可視化するダッシュボード「おきなわ観光地域カルテ」を無償公開し、観光事業者の人員配置やサービス提供の最適化、キャンペーンやプロモーション効果の把握に役立てています。
私たちは、データの力を用いて、先行きが不透明であることにおびえる世の中ではなく、努力して成果を出した人々に光があたって報われる社会への進化、明るい見通しが共有される社会基盤づくりに力を尽くしていきたいと思います。
株式会社ブログウォッチャーおでかけ研究所所長 酒井幸輝氏