
宮﨑氏
新たな旅の本質を見い出だそう
リトリートという言葉を最近よく耳にすることがあるかと思います。英和辞典で調べると、退去・後退・隠居所・避難所・隠れ家・黙想といった言葉が出てきます。観光的には、休暇の過ごし方を仕事や日常生活から離れ、リフレッシュする時間を持ち、心身ともにリセットするといった意味で使われています。
現代社会はストレスや体の疲れを抱えメンタルケアを必要とする方がたくさんいます。そういった方々に普段の旅とは違った過ごし方を提供するのがリトリートです。
具体的には1泊で名所巡りやグルメ・レジャー等を時間に追われて回るのでなく、リトリートは日常の慌ただしさや喧騒から離れ、自分自身と向き合い、ゆっくり過ごしリフレッシュするための長期滞在型の旅の形態です。「のんびり・ゆっくり」がキーワードです。
現在、群馬県ではリトリート事業を推進し「リトリートの聖地」を目指しています。県の担当者は各温泉地に出向き、お客さまが快適に過ごせるような環境づくりを地元観光協会と協議しています。昨年末には事業の一環として、観光政策に造詣が深い、デイビット・アトキンソンさんに私の地元である四万温泉を視察していただき意見交換をしました。
いろいろと辛口のご意見をいただいた中で一番参考になったのは「お客さま目線が足りなすぎる」というご指摘でした。旅館にしても街並みにしても、この温泉地には何が必要で、何が足らないのか、お客さまが望むものは何なのかを、聞きなさいとのことでした。それには街頭でしっかりした聞き取り調査を行い、その意見を参考に改善することが、一番の解決策だとアドバイスをいただきました。早急に実施したいと思っています。
四万温泉は昔から湯治場として栄えてきた温泉地です。昭和30、40年代は長期滞在の湯治客が半数以上を占めていました。当時のお客さまは四万へ到着すると、すぐには宿には行かず、温泉街にある懇意にしている商店に、手土産を持って行くのです。
なぜかというと、前年に預けてあった浴衣や下駄など滞在中に使う物を受け取りに行くからです。そして滞在中はその商店でお茶をいただき四方山(よもやま)話をしたり、温泉街を散策したり、時には床屋に行って散髪をし、のんびりと時を過ごしていました。これぞまさにリトリートではないでしょうか。
コロナによって痛手を負った温泉地はまだまだ回復していません。リトリートが欧米のバカンスのように旅行者に浸透し、休暇の過ごし方が少しでも変わり、新たな旅の本質を見いだせれば良いのではないかと思っています。