【2024新春特別インタビュー】日本観光振興協会 理事長 最明 仁氏に聞く


日本観光振興協会 理事長 最明 仁氏

バランスのとれた交流を 平準化や新価値創造に力

 ――(聞き手・内井高弘)2023年を振り返ると。

 新型コロナ禍で観光業界は大きなダメージを受けたが、5月に感染症法上の位置づけが「5類」になったことで旅行需要が回復、観光地ににぎわいが戻った。観光は人が動くことで価値が出る産業なので、日常が戻るというのは何よりの喜びだ。対面で交流することの大切さも改めて知ることができた。

 ――印象的な出来事は。

 10月に大阪で開催されたツーリズムEXPOジャパン。来場者数15万人の目標をほぼ達成できた。何より、観光事業者、一般の方がそれぞれの目的意識を持って参加していることが分かり、手ごたえを感じた。今やITBベルリンやニューヨーク旅行博などに匹敵する有意義なトレードショーになった。

 ――大阪開催は25年の大阪・関西万博を意識した?

 万博の観光需要創出効果は絶大だ。前売券の販売も開始され、いよいよ足音を感じている。ネガティブな報道も多くある一方、今年18歳となった成人の8割が支持しているという調査結果もある。冷静に万博の意義を捉え、日本を良くする、変えていこうという気概があるのではないか。

 ――インバウンドが回復する一方で、オーバーツーリズムの問題が深刻化している。

 スマホ片手に散策している外国人旅行者の姿をよく見かけるようになった。商店街、銭湯にも多く訪れている。有名観光地はこの比ではないだろうなと想像できる。

 オーバーツーリズムは「観光公害」と訳されることがあるが、公害という表現はいかがなものか。観光が悪いイメージで捉えられてしまう恐れがあり、非常に危惧している。オーバーツーリズムは一部の地域の一部の時期、時間帯に交通やごみ処理能力が観光客増に追いつかず、地域住民の生活への影響、旅行者の満足度低下への懸念があるということの意味だということを平易な表現で伝えることが大切だと考えている。

 東京にもたくさんの観光客が来ているが、オーバーツーリズムという話は聞かない。多くの観光客を誘致することが弊害を生むのではなく、ピークを平準化し、広く国内の地域に需要を分散することが必要だと理解してもらえるようにしなければならない。ただ、観光業界もきちんと広報してこなかった責任もある。当協会ではその反省に立って、今後国民への広報、説明を果たしていくことが必要だと感じている。

 ――政府は30年にインバウンド6千万人を目標に掲げているが、受け入れ態勢が十分とはいえない。

 おもてなし精神は高く評価されるが、日本では言葉に苦労したという感想も聞く。一方で外国語を話す若い人は着実に増えているし、翻訳アプリ機能も充実するだろう。ほかには、ハラル対応や礼拝の設備の充実、さらなるキャッシュレス化など、スピードを上げる必要がある。

 ――人手不足も深刻な問題で、業界の成長の足かせになっている。

 人口減少を踏まえ、近い将来起こり得る問題といわれていたが、コロナを境に急激に目の前に現れた。正直、数少ない若い世代の取り合いか、外国人労働者の活用しかないような気がする。同時に、AIやDXの導入などでカバーしていく。何より、観光業が魅力ある産業、働く場として選ばれる職種に業界挙げて取り組まなければならない。

 ――24年の展望は。

 大きな話題になりそうなのが3月の北陸新幹線金沢―敦賀間開業だ。23年11月に北陸デスティネーションキャンペーン(DC)の全国宣伝販売促進会議が福井市で開かれ、私も出席したが、しっかりと準備できているなと思った。

 また、万博開催1年前、ツーリズムEXPOジャパンの東京開催(9月)、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2024」(7~11月、新潟県十日町市)がある。大地の芸術祭は50万人以上が足を運ぶ。スポーツや音楽イベントも大きく数字が伸びるはず。日観振でも積極的に発信していく。

 ――観光復活だが、国内旅行活性化については。

 日本人が国内旅行をし、インバウンドが補完する形が理想的だ。

 コロナ禍、一部マスコミやSNSのあおりを受けてしまい、自治体が交流の流れを止めてしまった。また感染が拡大するたびにブレーキをかけられてしまった。県民・市民への感染拡大を防ぐためとはいえ、業界からすると厳しい対応だった。また何か起きたら同様の措置を取るのだろうか。

 政治の発言はとても重い。特に自治体の首長が観光振興に無関心だと影響は計り知れない。トップが観光を理解し、本気で動かなければ、観光振興は進まないと思う。コロナ禍で官邸、観光庁をはじめ政府は観光をしっかり支えようと努力をしてくれた。一方、われわれ観光産業が一体となってその応援に応えることができたのか、しっかり振り返りをしながら、「観光の重要性」を訴えていかなければならない。

 そして、バランスよく観光交流を発展させていかなければならない。アウトバウンドも同様に増やしていかなければならない。海外に行きたくなる環境づくりにも取り組まなければならない。

 ――日観振は24年度、どんな事業展開を。

 まず観光のナショナルセンターとして政府などに広く提言、要望活動を行う。国民に対しても観光の重要性を広く広報する。観光の経済波及効果を受ける企業、団体との連携を強める。

 次に観光により地域をマネジメントする力の向上が求められていることから、その一助として、世界のDMOが活用するDestination―NEXTの導入支援事業を引き続き行う。全国観光DMP、デジタル観光統計オープンデータを構築し、地域間の互換性を高めコストパフォーマンスのあるマーケティングデータを集積・提供していきたい。これらの施策を組み合わせ、旅行の平準化や新しい価値の創造、旅行者と受け入れる地域双方に喜ばれる観光の実現に努めていく。

日本観光振興協会 理事長 最明 仁氏

 

 
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