【2020年 観光の展望は】日本観光振興協会 理事長 久保成人氏


久保理事長

政策提言機能を強化 観光の力でまちづくりを

 ――2019年を振り返り、印象に残っていることは。

 「台風をはじめとする風水害の多発で、観光業界に大きな影響を与えた。10月に開いた都道府県観光協会(連盟)等会長会議で、被害や復興状況を報告いただき、地域間で共有、風評被害払しょくに向け連携を強化することを確認した。今や災害はたまにではなく、頻繁に起こる時代になった。事前・事後の行動計画をあらかじめ作り、訓練しなければいけないことを痛感した。その際、地域住民はもとより、外国人を含めた旅行者のことも想定したものでなければならない。全国の自治体や観光地は、外国人向けの情報発信や避難誘導の態勢を早急に作るべきだ」

 ――ラグビーW杯も盛り上がった。

 「出場国が含まれる欧米豪からの来訪者が増え、英国は前年比80%増という驚異的な伸びを記録した。これまであまり来なかった地域の人が訪れたのも特徴だ。こうしたことが契機で、新たな観光の掘り起こしや新しい事業形態ができるのではないかと思う。そのためには、訪日客がどういう行動をとり、受け入れ側はどのような対応をしたかを把握する必要がある。個人旅行が大半で、行動把握は難しい面もあるが、東京オリンピック・パラリンピックなど今後のイベントの参考にするためにも各方面で検証、データ収集が望ましい」

 「また、25年の『大阪・関西万博』の開催も明るい話題だ。オリ・パラの後、関西では21年に市民参加型のスポーツ大会『ワールドマスターズゲームズ』があり、万博へと続く。19年の『ツーリズムEXPOジャパン』の成功は関西の経済界の力添えも大きかった。特に、鉄道各社はポスターを車内吊りでPRしてくれるなど協力的で、この場を通して関西の皆さんに感謝を申し上げると共に、今後続くビッグイベントの成功に向け後押しになったと思う」

 「EXPOについてはテーマ別観光の出展に力を入れた。地域や組織の出展にとどまらず、それらを横串に刺した産業観光や酒蔵ツーリズムなどの普及に努めた」

 ――災害からの観光復興については。

 「何より国のスピーディーな対応がありがたい。これまで、『大変な時に観光で行っていいのだろうか』と遠慮する気持ちがあったが、最近では行って消費することが現地の助けになるという認識が広がっている。観光の力で復旧・復興に貢献するという考え方で、ふっこう割はそのきっかけの一つになったと思う」

 ――19年度の事業は。

 「観光のナショナルセンターとしての役割を果たすためには政策提言の強化が必要で、6月に『企画政策部門』を設置した。活動の一環として、部門内に設置している企画委員会が7月に20年度に向けた要望事項を観光庁に提出した。初の試みだ」

 ――どんな要望を。

 「2次(地域)交通の充実による観光客の地方への誘客や観光による東北復興支援に向けた官民合同の取り組み強化などだ。観光庁の20年度概算要求におおむね反映された。法律などルールが決まる前に業界としての要望をきちんと伝え、反映してもらわなければ意味がない。業界全体のプラスになるよう、政策提言を引き続き行っていく」

 ――20年度の展開は。

 「19年10月に起こった首里城火災は衝撃的。20年のツーリズムEXPOジャパンは沖縄開催だが、観光面での復旧・復興を支援する方向で考えていく。例えば、体験観光+地域交通利用といった沖縄ならではの観光の楽しみ方を提供するなどだ」

 「観光教育に引き続き力を入れる。旅の意義や楽しさ、人とのふれあい、観光がもたらす経済波及効果などを小さい時から知ってもらうことは観光産業の発展を考える上で極めて重要だ。学習教材(観光教育副読本)を利用した出前授業などを実施しているが、20年度も積極的に行う。協会ならではの事業だと思う」

 「DMOについては、地域DMOや地域連携DMOを対象に、モデル地域を募集、支援している。数も増え、人材の充実も進んでいるが、その経営責任にあたるリーダー層の育成はまだ不十分だ。よそから持ってくるのもいいが、やはり地域の事情を理解し、郷土愛の強い人がリーダーになる方がいい。米国のDMOへの視察研修に職員を派遣したり、教育メニューを協会として実施できるか検討中だ」

 「訪日客の増加をにらみ、インバウンドガイドの在り方を考えていく。ボランティアガイドはたくさんいるが、必ずしも必要な時に来てもらえるわけではない。語学が堪能な企業の定年退職者や、昔は語学教師だった主婦の皆さんの能力を生かさない手はない。そういう人たちを組織化して、必要な時に派遣できるシステムも考えていきたい。イーストとくしま観光推進機構DMOをモデルとして、ナイトタイムツーリズムに関連したインバウンドガイド研修を現在進行中で、今後メニュー化できるかどうか、検討中だ」

 ――観光業としての海運をどう考えていますか。

 「海事観光という発想がこれまであまりなかった。四方を海に囲まれている日本にとって、海運というのは観光立国を考える上で重要な手段だと思う。協会としては地方を拠点とするクルーズ促進モデル事業や、マリンアクティビティの情報発信事業などを通して、海事観光の在り方を考えていく方針だ」

 ――20年はどんな年に。

 「20年といわず、先の希望をいえば、観光の力で地域のまちづくりを後押しできれば。例えば、電柱の地中化による奇麗なまち並みの実現だ。電柱が地域の風景を損なっている面は否めない。スッキリした、統一されたまちには観光客も足を運ぶ。20年はそんなスタートの年になればいい」

(聞き手・内井高弘)

久保理事長

 

 
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