【駅メロ とわずがたり 3】JR岡山駅 種ありマスカット「アレキ」の哀愁 藤澤志穂子


桃太郎像(写真提供=岡山県観光連盟)

 JR岡山駅を降りると、「桃太郎」の銅像が出迎えてくれる。お供の犬、サル、キジを従えて鬼退治に向かう雄姿で、誰もが知る郷土民話だ。その岡山駅の発車メロディは「銀河鉄道999」、1979年に公開された同名アニメ映画の主題歌で、ゴダイゴの大ヒット。山陽新幹線の開業40周年を記念して、2016年3月から新神戸、岡山、広島、小倉、博多の5駅で流れている。「旅立ちを想起する曲」であることが選曲の理由で、少年・星野鉄郎の宇宙への旅立ちを描いた「999」と、桃太郎の伝説は不思議と重なり合う。

 隣接する広島に、仕事で2年ほど住んだ。「岡山へのライバル意識が強い街」という印象があった。「どちらが中国地方の中心か」という「意地の張り合い」だったのか。人口は広島県280万人、岡山県190万人。国の出先機関は財務局をはじめ広島に集中しており、世界で初めて原子爆弾が投下された国際的にも知名度の高い都市である。だが、交通の便が良いのは圧倒的に岡山だ。四国および山陰地方へ向かう列車の多くは岡山が出発の拠点で、大阪、そして東京へも、広島から行くより近い。広島に行くまで、私は岡山が中国地方の中心だと、思い込んでいたのだ。

 そんな話を、自宅近所で立ち飲みカフェを経営する岡山出身の女性にしてみた。この店「にこ」(東京都品川区中延)は、手作り総菜と自然派ワイン、岡山産の地酒や地ビールを出す、ちょっとした人気店だ。聞くと、どうも岡山の人たちは、広島のことを大して気にしていないらしい。その悠々とした明るさが、岡山の魅力だろうか。

 彼女に頼み、岡山産の高級ブドウ「マスカット・オブ・アレキサンドリア」を農家から取り寄せた。エジプト原産でクレオパトラも食べたという「果物の女王」だが、東京ではほとんど見かけなくなった。代わりに市場を席巻しているのは「シャイン・マスカット」で、種がなく皮ごと食べられる手軽さが子供から高齢者まで人気という。いっぽう「アレキ」は「種あり」だ。種なし処理をすると香りが飛んでしまうからだという。そのみずみずしさ、甘さは、種や皮といった多少の手間を割り引いても素晴らしい風味だった。

 思えばスーパーや百貨店では、種なし処理をしたブドウが増え、最近はデラウェアすら見かけない。さる都心の高級果物店に行ってみたら、並んでいたブドウはシャイン・マスカットと種なしピオーネのみ。われわれは、便利さの代わりに何か大事なものを失っているのではないか、という気分になってくる。

 スーパーの片隅には時々「種あり」ブドウがひっそり置かれている。「種なし」よりお安く、糖度も高い場合がある。最近は積極的にそちらを購入し、おそらくはこだわりを持って頑張っているだろう農家さんを応援したいと心掛けている。

 ※元新聞記者、昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。「乗り鉄」から鉄道研究家への道を目指している。著書に「釣りキチ三平の夢 矢口高雄外伝」(世界文化社)など。


桃太郎像(写真提供=岡山県観光連盟)

 
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