【駅メロ とわずがたり 24】JR奥羽本線大久保駅 高崎優さんフェスへの思い 藤澤志穂子


 秋田県横手市出身のシンガーソングライター、高橋優さんは毎夏に秋田県内の13市を順番にまわる野外ライブ「秋田キャラバン・ミュージックフェス」を2016年から開催している。コロナ禍の中止を経て、6回目の今年の会場は潟上市、市営公園に隣接する陸上競技場で9月16~17日の2日間行われた。今年はクマの出没が秋田県内各地で相次ぎ、会場内にも「クマ出没注意」の掲示が出されていた。だがフェスの盛り上がりに恐れをなしたのか、クマが現れることはなかったようだ。

 潟上市は人口が約3万1千人、八郎潟(湖)でとれるワカサギのつくだ煮が知られている程度で、観光スポットが多いとは言えない。だがライブには2日間で約1万8千人が詰め掛けた。全国からのファンのほか、多くの潟上市民も参加、最寄りのJR大久保駅には臨時の切符売り場が設けられ、長蛇の列ができた。

 今回のフェスには高橋さんのほか、フジファブリック、緑黄色社会、ゴールデンボンバーなど多彩なゲストが出演。私は1日目に参加=写真。近くに小学校低学年らしき兄弟がいて、高橋さんのステージを立ったままじっと見つめていた。おそらく生まれて初めて見たライブに興味津々だったのだろう。2日目のオープニングはサプライズで秋田県仙北市出身の歌手、藤あや子さんが登場、高橋さんが作詞・作曲した「秋田の行事」を一緒に歌った。この歌は昨年9月に発表。秋田民謡がベースで、歌詞は秋田弁そのままの応援歌である。

 秋田に対する高橋さんの貢献は大きい。「田舎」が嫌で高校卒業と同時に秋田を出たものの、出て初めてその良さに気付いたという。人とのつながり、豊かな自然や文化など「何でもない日常にこそ価値がある」という視点であろう。そのメッセージは、高橋さんの歌にもつながっていく。その一つである「明日はきっといい日になる」はJR秋田駅の新幹線ホームで、2017年3月から発車メロディに採用されている。

 そしてフェスでは毎回、高橋さん自ら開催地域を紹介する「秋田キャラバンガイド」を作成。今回高橋さんは同世代で、明治時代創業のつくだ煮屋を継いだピアニストの男性、曽祖父から続くワカサギ由来の魚醤(ぎょしょう)を作るしょうゆ屋を守る女性を訪ねた。葛藤を乗り越え、家業を継いだ2人と語り合い、仕込みに参加し、つくだ煮やしょうゆを使った料理に舌鼓を打った。

 企画・編集を担当するアートシステム(秋田市)の関谷陽一さんは「観光から一歩ふみこんだ秋田の良さを紹介できるよう心掛けています。高橋さん自身、秋田を出て札幌、東京と暮らし、いい意味での『よそ者目線』を持っている。外の人から見てこそ分かる、その土地の『何でもない良さ』こそ、今の時代には価値あるものではないでしょうか」。

 ※元産経新聞経済部記者、メディア・コンサルタント、大学研究員。「乗り鉄」から鉄道研究家への道を目指している。著書に「釣りキチ三平の夢 矢口高雄外伝」(世界文化社)など。


 
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