秋田県横手市出身のシンガーソングライター、高橋優さんの代表曲の一つ「明日はきっといい日になる」は、未来に希望をつなぐ歌としてコンサートでは大合唱になる歌だ。JR秋田駅では2017年3月、秋田新幹線こまち20周年記念としてメロディに採用された。当時のJR秋田支社の職員の発案で「東京から来た人にも分かる、希望を感じさせるメロディ」という点が決め手になった。音源の製作は、秋田を拠点に活躍するシンガーソングライター、渡部絢也さんが担当。渡部さんはJR茅ヶ崎駅で流れるサザンオールスターズの「希望の轍(わだち)」を参考に、前向きで明るいイメージの駅メロを制作した。
スタートにあわせて、高橋さん直筆のメッセージを記載したサインボードが駅西口に設置された(現在は撤去)。「明日」を「秋田」に書き換えた、「秋田はきっといい日になる」というメッセージだ。横手市とともに、秋田駅はファンの「聖地」の一つとなり、今も多くのファンが全国から訪れ、音源に耳を傾ける。
高橋さんは、秋田県内でのコンサートではこの曲の歌詞を「秋田はきっといい日になる」と変えて歌う。そのハイライトが毎年夏に秋田県内で開催している野外コンサート「秋田CARAVAN MUSIC FES」だ。2015年から、県内13市を毎夏、順番に回る企画で、今年は秋田県潟上市の元木山公園で、9月16~17日の2日間にわたって開催される。コロナ禍の中止を経て、今年6回目、これまでに横手市、由利本荘市、仙北市、大仙市、北秋田市で開催されてきた。ファンの多くが秋田駅を経由する形で会場へ向かい、この駅メロを耳にしてきた。
故郷が嫌いで、県内の高校卒業後は北海道の大学に進学し、路上ライブを経てメジャーデビューした高橋さん、離れて初めて秋田の良さに気が付いたという。秋田県は人口減少率や、高齢化率が全国トップクラス、その進行に歯止めがかからない。でも自然が豊かで、人と人とのつながりが温かい。そんな秋田をもっと知ってほしい、もっと元気づけたい、という思いがFESを実現させた。県のイベントにも積極的に参加しており、写真は2018年5月に秋田市で開催されたイベントで県民歌を合唱する高橋さん(中央)の様子だ。
FESでは毎回、高橋さんが自ら街を歩いてスポットを紹介するガイドブックを制作、県内で無料配布される。潟上市は、秋田市のベッドタウンのような街であり、米作りが盛んなものの、観光客が訪れる機会は少なかった。だが市内の八郎湖ではワカサギが取れ、その佃煮が名物でもある。地酒の酒蔵もある。内容は高橋さんと調整中で、「地域の人たちが、故郷の魅力を再発見するような内容にしたい」と関係者は意気込んでいる。
※元産経新聞経済部記者、メディア・コンサルタント、大学研究員。「乗り鉄」から鉄道研究家への道を目指している。著書に「釣りキチ三平の夢 矢口高雄外伝」(世界文化社)など。