【駅メロ とわずがたり 13】JR茅ヶ崎駅 紆余曲折、15年越しの「希望の轍」 藤澤志穂子


 「茅ヶ崎=サザンオールスターズ」を連想するむきは多いだろう。リーダー桑田佳祐さんの出身地であり、曲にゆかりの場所が登場する。サザンは2000年8月に、茅ヶ崎公園野球場で凱旋コンサートを開催、これを機に駅の発車メロディの企画が持ち上がった。所属事務所も快諾し、翌2001年3月に、地元商工会議所が駅前で「どの曲がふさわしいか」のアンケートを実施。約1万人が寄せた回答中のトップが「希望の轍(わだち)」だった。明日への希望を感じさせるサザン定番の曲だ。

 商工会議所はJR東日本横浜支社に実現の要望書を提出。だが、この企画は頓挫する。

 関係者の話を総合すると、当時はまだ駅のメロディが普及しておらず、楽曲の使用は、視聴覚に障害を持つ乗降客の妨げになりかねない等、JR側が実施に二の足を踏んだことが理由らしい。企画が再び日の目を見たのは2013年。サザンが5年ぶりに活動を再開、8月に再び公園野球場で凱旋コンサートを開催し、桑田さんに市民栄誉賞が贈られた。商工会議所は再び署名活動を始め、約1万人分を集め要望書をJRに提出。2014年10月に実現した。東海道線の上り線でイントロ、下り線でサビの部分が流れている。

 メロディはサザンが監修。「ライブで原由子さんが弾くイントロは、(1990年発表の)レコードバージョンではなく、ライブバージョンだそうです」と、実現に尽力した石井政輝さん。茅ヶ崎で高糖度のミニトマトを育てる農家の16代目だ。「桑田さんは自分のラジオ番組で茅ヶ崎についてよく語っている。『地元愛』はものすごく強いはずです」。

 JR茅ヶ崎駅南口を出ると、商店街「サザン通り」があり、縁結びのモニュメント「サザンC」=写真=がある海岸「サザンビーチちがさき」まで2キロほどのそぞろ歩きになる。ここからは、サザンの曲に登場する「えぼし岩」と「江の島」が臨め、サーファーも集う。

 途中には桑田さんが通った市立茅ヶ崎小学校があり、洋菓子店「エトアール」はサザンにあやかった名前のサブレなどを販売。桑田夫妻が結婚指輪を購入した時計店「時宝堂」では、2人の指輪のレプリカをペンダントにして販売。その先には「茶山(さざん)」という名の深蒸し茶を売る「茶商 小林園」。向かいの「サザン神社」は商店街の協力で古い店舗を改装、結婚を報告するファンが詣でており、小林園では楽器をあしらった、参拝記念のご朱印状まで制作した。地域総出で盛り上げている様子だ。

 一方で、デビュー前の桑田さんを知る人々には「あまり騒がず、そっとしておいてあげたい」という思いも強い。「いつでも気軽に帰ってきてもらえるようにしたいから。実は”あやかり商売”をするのは気が引けるんですよね」。そんな本音も漏れていた。

 ※元産経新聞経済部記者、昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。「乗り鉄」から鉄道研究家への道を目指している。著書に「釣りキチ三平の夢 矢口高雄外伝」(世界文化社)など。

 
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