【道標 経営のヒント110】LCC深夜便、早朝便対応 石井敏子


 お盆を過ぎた翌週ともなると行燈旅館は一段落ついて、秋の観光シーズン到来を待つ準備期間となる。今年の夏は例年にも増して早朝出発、深夜到着が増えてきたと感じた。

 実は8月の新入社員の受け入れを逃し、十数年ぶりに毎週1日から3日ほど夜シフト(14~22時)に入っている。自分自身予期しなかったのだが、お客さまに対応する時間が長くなった分さまざまなことに気づかされた。

 一つは深夜便が増えたことでスタッフの負担が増えてきていた。以前はフロント業務が22時に終了としていても、お客さまの事情に合わせ深夜も対応してきた。しかし思い切って、深夜勤務をなくすことにした。

 入り口ドアに工夫をし、事前メールでお客さまにチェックイン方法を告知し納得していただいた上で、お客さま自身のチェックイン、翌日手続きとした。これで勤務時間が22時にピッタリと終わることができる。実行してみると「何で今までできなかったのか」と、反省した。

 ある日の夜、フロントを閉める直前にお客さまが来て「明日は羽田空港から早朝便なので、タクシーを行燈から最寄り駅まで5時半に予約して下さい。荷物もたくさんあるので歩いて地下鉄に乗るのは辛い」と言ってきた。そこで数社に電話をかけた。1社は「もう営業時間外」、1社は「早朝配車なし」、1社は「前日予約締め切り」。お客さまにその旨を伝えると延々と苦情を言ってきた。

 「僕はニューヨーク、上海、香港といろいろな国に行っているけど、一度だってタクシーを予約できなかったことはない。この大都会の東京で朝のタクシーがないなんて考えられない」と。もっともな話だ。

 そこで、タクシー以外のルートを何点か紹介したが、全て荷物を持っての歩きと電車の乗り換えが必要なルートだ。私としては諦めていただくしか方法もなく、ただ申し訳ない顔をしてこの東京の弱点に頭を下げるしか方法はなかった。

 また、ある日はやはり早朝便成田空港行、6時半空港到着、4人家族の長旅(ニューヨーク~東京~上海~北京~ニューヨークルート)である。荷物のたくさん入るバンを予約したいと言ってきた。

 1社に電話をかけたら、「早朝バン全て予約済みで配車不可」。こちらもまた、無理なのかなと諦めていたら、お客さまがスマートフォンを操作し始めた。「見てこれ」と言うので、見るとウーバーなら2万7千円で成田空港まで現在予約可能とあった。こちらは法律的な問題は度外視して、うなってしまった。

 お客さまに今、必要なサービスが受けられないなら、最後に東京のイメージを台無しにしてしまう。さまざまな東京の課題をお客さまが教えてくださる上に、スタッフの勤務体制の見直しもできる、しばらく夜シフトを楽しむことにした。

 
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