【道標 経営のヒント 355】思い出作りに、涙々の1枚 宮坂 登

  • 2022年12月3日

 アメリカのベンチャー企業の要人が家族を伴って来日した。

 仕事上ではネット画面越しのつきあいで、笑顔のないタフなネゴシエイターぶりに驚かされていたが、いざ会ってみると印象はガラリ変わる。やはりビジネスは直接会わないとダメ。2日間、納得するまで話し込んだ。

 その折に当方が観光関係の仕事もしていることを知った相手から案内を頼まれた。どうしても横須賀に行きたいという。理由は彼の父親がベトナム戦争時に横須賀基地にいたことがあり、父親からの手紙に書かれていた街の様子を見てみたいということだった。横須賀からベトナムに向かった父親が激戦地で戦死したことも知らされた。父親の面影をたどる旅、それだけではさみしすぎるので思い出作りに一役買うことにした。

 横須賀の前にまず鎌倉だ。前の晩は横浜駅前のホテルに宿泊してもらうようお願いした。横浜駅から早朝の横須賀線に乗れば、円覚寺で朝6時から行われる座禅会に間に合うからだ。七百余年の古刹。七道伽藍の醸し出す境内の清々しさに神妙な顔、顔、顔。初めて組む座禅、調身、調息、調心…、いただく警策と合掌。約束事は事前に教えてあったがやはりつらそう。しかし禅宗のならわしと知れば、貴重な経験になると考えたようだ。しびれた足をさすりながら笑顔がこぼれる。

 続いて源氏山を抜けて銭洗い弁天へ。お金を水で洗えば何倍にもなって増える金運・財運アップの神社があるといったら、さすがベンチャー。ぜひにも行きたいという。洗った100ドル紙幣と1万円札は帰国したら額に入れて飾ると言っていた。もうけは分けてくれとお願いすると、グータッチ。

 ランチは知り合いの料理屋の主人に頼み込んであり、自分ですしを握る体験を楽しんでもらおうという趣向。これは受けに受けた。玉子焼きの作り方にも興味津々だ。出来映えなど問題ではない。外国人にとってみると自分ですしを握るという行為がとても不思議で新鮮のようだ。旅館・ホテルでもそんな企画をもっと取り入れてもいいのではないか。

 そしていよいよ横須賀へ。彼の父親の手紙にあったどぶ板通り。目に飛び込んでくるのはミリタリーショップの看板やアメリカンな雰囲気の店々。ベトナム戦争当時はこの通りに毎夜多くの米軍兵士が集っていたことを伝えると、彼の瞳が潤み始める。

 涙の外国人を連れ歩くのも気が引けるのでバーに連れ込むとその壁に、ビールジョッキを掲げて騒ぐ米軍兵士たちの古ぼけた写真…。それを見つめながら肩を震わせている姿に思わず涙がこみ上げた。

 
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