【道標 経営のヒント 354】若者の正義 小倉理加


気がつけば、「最近の若者は」と言われる側から、言う側になって久しい年になった。でも、最近いくつかの旅で、そんな若者たちの方がよほど正しい生き方をしていることに気づかされた。

きっかけは、松本の温泉旅館を訪ねたときのこと。そこはスタッフの多くが若い人たちだった。感心したのは、彼らが実によくゲストを観察して、絶妙なタイミングで求めているサービスを提供してくれること。ディナーの席では食事の量が負担に感じ始めた頃、「次から少なめにしましょうか」とさりげなく助け船を出す。そして、皆がとても楽しそうに働いているのが印象的だった。思わずその感想を口にすると、「僕らが楽しくなければ、お客さまを楽しませることはできませんから」と満面の笑みが返ってきた。心に“ゆとり”があるからこそ、ベストな仕事ができるのだ。

また、小田原方面へ向かう列車に乗った日のこと。急に倒れ込んだ男性がいた。最初に手を差し伸べたのは若い男性だった。それでも、うまくいかなかったところ、もう1人の若い男性が救助に乗り出した。それでもどんどん容態が悪化していく様子を見かねて、今度は若い女性が車内の緊急ボタンを押して車掌に連絡を入れた。的確に状況を説明し、無事倒れた男性は保護。一方、その男性の隣に座っていた壮年の男性は対照的に始終見て見ぬふりを決め込んでいた。

最近、熊野古道を旅したときの壮年のガイドにも、それを感じて腹が立った。2人のスペイン人とすれ違ったのだが、ガイドはうっかり、「どこから来たんですか」と話しかけてしまったのだ。スペイン人はこれ幸いと「英語が話せるのか! それなら、このつえは持ち帰ってよいものなのかを教えてほしい」と言ったのだ。早口だったこともあり、ガイドはちんぷんかんぷん。訳してあげたところ、最近は勝手に持ち帰る人が多くて困っているからなと一言。その旨をスペイン人に伝えてあげようと思った矢先、ガイドは面倒になったのか「OK、OK」と言って行かせてしまったのだ。

一見、よいことをしたようだが、果たしてそうだろうか。同業だから分かるのだが、その2人組は雑誌の記者とフォトグラファーだった。ガイドいわく、熊野古道とサンティアゴ・ラ・コンポステーラは共に巡礼の道であることから、二つの巡礼を達成するともらえる限定バッジを目当てに、スペイン人が多く訪れるらしい。ということは、あの記者が「道の途中にあるつえは持って帰ることができる」と誤って伝えてしまったら、問題は大きくなるはずだ。実は、今の時代、私たちは、若者たちから「最近のおばさん、おじさんは無責任だし、役立たず」と言われているに違いないと背筋が寒くなった瞬間だった。

 
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