【道標 経営のヒント 353】大人の失敗は共有することで価値があがる 福島規子

  • 2022年11月17日

 大人なってからの失敗談は数々ある。そのほとんどが知ったかぶりか、もしくは勝手に「これが社会の常識」と思い込んでとんちんかんなことをやってしまったかのいずれかである。思い出すだけでも全身からじわりと嫌な汗がにじみ出る。

 駆け出しの雑誌記者兼編集者だった頃、取材後にカメラマンに連れて行ってもらった銀座のすし屋で「アジは価格も手ごろな大衆魚」と思い込み、最初から最後まで「シマアジ」を頼み続けたことがある。シマアジが高級魚であることを知ったのは、随分と後のことである。また、焼物に添えられた「薑生姜(はじかみしょうが)」の食べ方を知らず、赤い部分をかみ切ろうと口に入れたものの繊維が固くてかみ切れず、結局かみ切れないまま白くなった薑を口から出してしまったという苦い経験もある。

 最近では「スワリング」で失敗した。ワイングラスを右へ左へとブンブン回しながら「ワインは空気に触れることで、本来の味と香りが引き出されるのよ」と小鼻を膨らませて知ったかぶりを披露してしまったのである。そもそもワイングラスを回す「スワリング」には作法があるらしい。グラスを回したときにワインの表面が波立たないようにする、香りが自身の鼻先で立ち上がるようグラスは反時計周りに回す等々。見様見まねで得意気にグラスを回す姿を思い起こすと、恥ずかしさに身が縮む。

 ただ、このような失態が続いたとしても、よほどのことがない限り、サービス提供者が顧客の無作法を指摘したり、正しい作法を教えたりすることはない。顧客の自尊心を傷つけないよう顧客からは見えないところでさり気なく気を使うのみである。

 たとえば、顧客が椀物のふたをひっくり返して身にのせたとしても、接客係はふたを重ね直すことはしない。これみよがしにふたを元通りに戻したとしたら、暗に「あなたの作法は間違っています。正しくは、こうです」と非難しているように見えてしまうからである。あえて直さず、その状態のまま下げるのが接遇の基本である。

 とはいうものの顧客の立場から言えば、見えない配慮よりも、正しい知識やマナーを教えてくれたほうがよほど有り難いし、有益だという思いもある。先の「シマアジ」にしても、大将が一言「シマアジは高級魚」と言ってくれれば無茶はしなかったし、薑生姜にしても接客係が「白い部分を一口どうぞ」と小声でささやき、「スワリング」にしてもソムリエが豆知識として正しい作法を教えてくれれば赤っ恥をかかなくて済んだはず。

 大人になってからの失敗は精神的ダメージが大きいが、年を重ね、それなりの飲食店や宿泊施設を利用できるようになれば、サービスを享受するフェーズも変わる。大人としては、もてなす側と対等に語れるよう失敗を共有し、サービス経験値を向上させていきたい。

 
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