【道標 経営のヒント 349】会話も「旅のごちそう」はデジネイティブに通用っするか 福島規子


 Z世代と呼ばれる1990代半ばから2010年ごろまでに生まれた若者たちは、ネット環境の普及後に生まれ育った生粋のデジタルネイティブ(以下、デジネイティブ)である。手のひらのスマホで音楽を聴き映画を鑑賞し、SNSで他者とつながる。

 以前、相手が目の前にいるにもかかわらず用件をメールで送信する若手社員の行動にあぜんとしたことがあったが、大学で担当する対人コミュニケーション論の講義で次のような質問をしてみた。

 問い:デジネイティブは、隣席の同僚にもメールで用件を伝えるという。また、電話で直に話すことよりも、LINEなどのSNSを使って文字でコミュニケーションを取ろうとする傾向が高い。なぜ、デジネイティブは電話ではなく、文字伝達を好むのか。

 回答で最も多かったのが「電話だと緊張するが文字で伝えるときは緊張しない」というもの。ほかにも、電話だと話しているうちに自分の考えがまとまらなくなる、文字伝達の方が相手の時間を奪わずに済むからといった相手への配慮を理由にあげたコメントもあった。ただし、「相手の時間を奪わない」という言葉の裏側には、電話は緊張するから嫌、自分の都合で用件を伝えたい、相手の反応を見ながら話をするのが面倒くさい等々、直接、相手と関わることに臆病になっているデジネイティブの本音も見え隠れする。

 そもそも人が初対面の人に話しかけるのは、緊張の緩和に他ならない。例えば、自分のことを知っている見知らぬ相手と対面したとき、自分は相手のことを知らない分だけ、警戒心が働き緊張する。この情報量の不均衡が、緊張や不安感を生む。

 初めて訪れる場でも同じである。ホテルのチェックインにしても、デジネイティブたちは迷わず対面ではなく、機械による自動チェックインを選ぶ。そこには簡単迅速といった機能的メリットだけではなく、知らない人と話をしなくてもよいといった心理的メリットもある。

 遠方からの客を出迎える旅館では、接客係との会話も「旅のごちそう」と考えてきたが、デジネイティブの場合は必ずしもそうとは限らない。生身の人間よりもAIロボットの方が、安心感を覚える客もいるだろう。

 「時代の流れ」「新しいもてなし様式の創出」「サービスDX」といった用語から期待されるのは、非接触を超えた完全なる非接客型サービスである。Z世代が消費の中心となる頃には、旅のごちそう話を提供するのは接客係ではなく、ディスプレイに映し出されたAIとなり「接客係」という仕事そのものが消滅している可能性もある。

 ただし、接客係の消滅は旅館の伝統文化を伝承する人がいなくなるという新たな課題を生み出す。客の要望に応えるだけが旅館の使命ではない。旅館が旅館として生き永らえるための知恵を絞りたい。

 
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