【道標 経営のヒント 342】日本が誇るパール文化 小倉理加


 今、若者が憧れるジュエリーの筆頭は、パールだそうだ。少し前までは、「パールは古い」と小馬鹿にしていた世代が、こぞって手に入れているほど。もはや、空前のブームと言ってよいだろう。火付け役は、ミキモトとコム デ ギャルソンのコラボレーションである。そのファッショナブルな広告に触発され、男性陣も飛びついた。

 せっかくなので、世界を席巻しているパールの知識を少々。まず、“パール”という名前の由来は洋梨を意味するラテン語の「ピルラ」という説と、二枚貝を表す「ペルナ」という説がある。天然パールしかなかった時代は、まん丸のパールは珍しかったので、案外洋梨説が本命かもしれない。和名の真珠は、山で採れる美しい石を“玉”、海で採れるものを”珠”と呼んだからだというのが主流である。

 パールは非常に高価なものであり、地位と権力の証とされた。今、男性たちがパールのネックレスをしている姿は新鮮に映るが、昔のヨーロッパでは最も好まれていた装飾品だったらしい。

 パール好きの男性は、中国統一を果たした秦の始皇帝もしかり。不老不死のシンボルとして愛した。ジュリアス・シーザーは、手のひらでパールの重さを計るだけで価値を見抜けるぐらいパールに精通していたという。

 ほかにも男性との逸話はある。古代ローマ帝国の皇帝ウィテリウスは、戦争の経費を母親が愛用していたパールの片方のイヤリングだけで支払ったそうだ。

 島国である日本では、縄文時代の遺跡から加工された淡水パールが出土されており、ゆかりが深い。「古事記」や「日本書紀」には「しらたま」「あわびたま」の名で登場し、「魏志倭人伝」では卑弥呼が魏の国王に真珠5千玉を贈ったと記されている。また、奈良の正倉院には、1200年以上前の真珠が残されている。聖武天皇の冠の装飾に使われているのだ。

 その後、御木本幸吉のおかげで、養殖真珠は日本が誇る産業に発展したが、ブームの影で危機を迎えているところもある。先日訪ねた賢島だ。3年ほど前にインバウンドで中国人に爆発的に売れていたものの、最近では彼らが養殖業者へ直接コンタクトを取るようになり、めっきり売れなくなったと嘆く。そのため、在庫がダブつき、数年は新しい商品を作る必要がなく、職人の仕事がなくなった。とくに大珠の商品はこの先、なかなか出なくなると聞いたので、記念に1点ネックレスを購入した。

 パールは、邪気を払うと信じられていたことから、かつては船乗りや漁師のお守りでもあったと聞く。まろやかな光沢は、目にするだけで癒やされるので、今の時代に好まれるのは必然なのかもしれない。

 
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