【道標 経営のヒント 333】プラ使用制限の要 行動経済学で歯ブラシ持参を促す 福島規子


 「プラスチック新法」が施行され2カ月が経過した。某旅館ではアメニティ類の在庫数がかなり残っていることや顧客への周知が不十分であることから、当面の間、アメニティ類は客室に整備せず、チェックイン時にフロント係が無料で提供することにしたのだが、現場からはさまざまな声が上がってきた。

 ・お客さまに、客室にアメニティの用意がないと言ったら、サービスが悪いと苦情を言われた。

 ・歯ブラシをフロントで渡しても、結局は洗面所のゴミ箱に捨てられるので、プラスチック削減にはつながっていない。

 ・無料で配るのならば、いままで通り客室に置いておいてもよいのではないか。チェックインが重なったときに、フロントだけで対応するのは無理。

 などなど。顧客に不便を強いてまで、環境問題に取り組まなければならないのかという現場のモヤモヤ感も分からないではない。

 ところで、人の心理や行動をもとに経済を分析・解釈していく行動経済学という新しい学問分野がある。行列のできるラーメン屋に人が行きたがるのは、多くの人が同じ行動をとっていると、つい釣られて自分も同じ行動をとってしまうから(ハーディング効果)といった心理学の観点から、人の感情が動かす経済の仕組みをひも解いていく学問だ。

 そこで、このハーディング効果を使って、フロントカウンターに並ぶ宿泊客が、思わずアメニティの受け取りを辞退してしまうような仕掛けを仕込んでみる。

 例えば、アメニティを持参した宿泊客には「宿泊料金から百円引き」あるいは「一口ビール無料提供」「茶菓1個プレゼント」といった外発的報酬を約束し、アメニティの受け取りを辞退してもらうのである。

 するとアメニティを持参していない宿泊客も、目の前に並んでいる他の客たちが次々と「あっ、歯ブラシいらないです」「くしとかも大丈夫です」とアメニティの受け取りを辞退していくのを目の当たりにすると、自分の番になったときに、つい「アメニティはいりません」と受け取りを辞退してしまう可能性がある。多数派の行動に自身の行動を合わせて安心感を得ようとする「ハーディング効果」である。

 最初は外発的動機であってもアメニティ持参が習慣化してくれば、いずれ特典がなくなった場合でも、宿泊客は自発的に歯ブラシセットやカミソリを持参するようになるだろう。エコバッグが習慣化し買い物風景が激変したように、アメニティ持参が習慣化すれば、ホテルや旅館の洗面台にも色とりどりの歯ブラシが並び、光景は一変する。

 ポストコロナで歯磨き用コップを紙製に変えたところも少なくないが、紙コップに歯ブラシは立たない。さあ、かわいい歯ブラシ立てをそろえよう。

 
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