【道標 経営のヒント 330】桜の季節 小倉理加

  • 2022年5月26日

 今年ほど、さまざまな場所で桜を楽しんだ年も珍しい。3月下旬の山梨に始まり、4月の頭に訪れた3分咲きの吉野山、京都、都内でも時々の桜を愛でる機会を得た。出張が多い時期や、スタジオにこもっての撮影が続く時などは、気づいた頃に桜の季節が終わっていることもあるが、今年は種類の違う桜を味わうことができるほど、じっくりと花見をした。中でも、小さな花が丸く集まって咲く大手毬(おおでまり)の愛らしさはお気に入りになった。

 それでも、若い頃はそれほど桜に情緒を誘われるものではない。お花見が楽しいが、その淡い色合いやはかない命に思いをはせるまでには至らなかった。その素晴らしさに最初に気づかされたのは、実はギリシャだった。大学生で最初に訪れた外国がギリシャだったのだが、その時、2月のまだ肌寒いアテネの遺跡を彩るように咲いていたのがアーモンドの花だった。ほんのりピンクがかった花が桜を思わせた。初めての外国で、日本を想起させるものを目にして郷愁を誘われただけかもしれない。それでも、その柔らかな色彩とふくよかな花の包容力に癒やされた。以来、日本で見る桜にも、特別な美しさを感じるようになった。

 桜の魅力は、個人的には驚くほどに一晩で趣を変えることだと思う。それを最も実感したのは、駆け出しの編集アシスタントの頃。編集部の窓から眼下にお堀の桜並木を目にすることができたのだが、徹夜明けに薄紫色に染まる空の下、目を向けると前日まではつぼみだった桜の花が一気に開花を迎えていたのだ。古来、多くの人が心を奪われ、歌に詠まれ、桜守なる職業が生まれる理由を、その一晩の変容ですっかりと納得がいった。

 それでも、桜は共通してピンクという印象だった。それを見事に打ち破ってくれたのが、今年最後の桜鑑賞となった展覧会「ダミアン・ハースト 桜」である。原寸大のキャンバスに、点描画のように桜の樹々が描かれた大作が並ぶ見事な展示だったが、ピンクや白の花に、青や赤といった色が差されていたのだ。ピンクだけでは平面的だったところ、ふと見上げた樹々の合間に青や赤の光を目にしたことから桜の花の合間に同じ色を彩色して奥行きを出すことに成功したと作家が語っていた。

 さまざまなタイトルの桜がある中、ひときわ優しい表情だったのが「帝国の桜」というウクライナの美術館所蔵の作品だった。調べれば、京都と姉妹都市であるキーウにはヨーロッパ一長い桜並木があるそうだ。もともと、日本とウクライナの外交関係樹立を記念して植樹されたという。来年は、多くの人がこの優しい彩りを平和な空の下で眺められるようにと願わずにはいられなかった。

 
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