旅館・ホテルでは全館禁煙に切り替える宿が多い。受動喫煙防止がトレンドになり、よりクリーンな滞在環境を求める人が多くなっていることへの措置だと思う。宿にとっては顧客に嫌われてしまったら商売にならないというのも本音に違いない。施設へのタバコ臭やヤニの付着防止の意味もあるかもしれない。愛煙家にはますます肩身の狭い世の中になっている。実際に宿の喫煙所を見ると、屋外にポツンと灰皿のある喫煙コーナーがあるだけの宿が多く、喫煙者はまるで犯罪者のような扱いである。だが、喫煙者とて大切なお客さま。個人の嗜好は抑えられないことを一考することも検討に要すると思う。
都内を歩いていて気づくのは、あちこちにパーテーションで囲われた屋外喫煙所が増えていることである。改正健康増進法と東京都受動喫煙防止条例の全面施行により、2020年4月から事業所や飲食店等の屋内で原則禁煙となったことがその要因になっている。「タバコを吸う場所がない」というのが多くの喫煙者の嘆きなのだ。
その一方で路上喫煙の増加といった喫煙マナーの問題も浮上している。大阪府が報告した「受動喫煙防止対策における飲食店実態調査及び府民への意識調査」では、たばこを吸わない人が屋外分煙所の設置を求める声は8割を超え、吸う人よりも要望が多いという結果になるなど、たばこを吸う人だけでなく、吸わない人にとっても公共喫煙所は有効という結果が報告されている。日本たばこ産業でも、喫煙環境整備と喫煙マナー向上の啓発活動によって、吸う人と吸わない人がともに快適に過ごせる社会を目指したいと屋外喫煙所の普及に努めているようだが…。
喫煙者へのサポート。それを示唆する屋外喫煙所がある。個人的趣味から、墨田区にある「すみだ北斎美術館」を訪ねた際に、デザインアートを施した屋外喫煙所を錦糸町北口で目にした。葛飾北斎が人生のほとんどをすみだの地で過ごしたことから、墨田区では区の魅力を内外に広めるため、2016年から「みんなが北斎プロジェクト」なる事業を推進している。テーマは障がいのある人が創作活動を通じて地域社会に参加する環境の提供であり、喫煙所にはさまざまなアート作品が施されている。見ていて楽しい。
テーマは異なるが、宿での喫煙者をどのようにもてなすか、と飛躍して考えれば、宿の敷地内にアートを施した喫煙施設があってもいいのではないかと思う。そこで一服するひとときに心が沸き立つような…。灰皿ひとつでは、ちょっと寂しすぎる。