【道標 経営のヒント 291】旅館業という職種はない!?  宮坂 登


 つい先日、NHKのニュースで見て感じ入ったニュース。佐賀県ではお役所改革を進めるために佐賀県職員採用サイトをリニューアル。そこに掲げたのが「公務員という職種はない」という新たな採用コンセプトだそうだ。そのサイトを見て集まったのが民間企業での勤務経験がある人たちで、前職は病院勤務、エンジニアなどさまざまだ。

 自分たちの仕事は「公務員」という言葉でまとめられるような画一的な仕事を行っているイメージで見られているが、県の職員は民間企業で働く社員と同様に、「行政職」や「教育行政職」などそれぞれの領域においてプロフェッショナルである、というのが佐賀県側のスタンス。人事担当者の会議でも「公務員になりたい人はいらない。佐賀県職員になって何をしたいのか、明確なビジョンを持った人を採用したい」という発言が相次いだようだ。

 変化の激しい時代に対応した行政サービスを提供するには、民間で培われた柔軟な思考が必要。特に民間のスピードや顧客第一の目線を取り入れるために、採用にあたっては語学や知識を問う筆記試験をなくし、多様な人材の獲得をめざしているとも聞く。佐賀県の社会人採用者の行政職全体に占める割合は約12%で、全国トップだそうである。

 このニュースを見て思い浮かんだのが、旅館・ホテルで長く続いている人材不足。新卒者のリクルーティングに力を入れている宿も多く知っている。キャリアのない若い社員にゼロから宿の仕事を教え込んで一人前に育てていくことも必要だと思うが、募集にあたっての表現を見ると「夢のある仕事を一緒に!」というような画一的なものが多い。その表現に夢などみじんも感じない。

 そこでちょっとスタンスを変えて、スタッフ採用における観点を変えてみたらいかがだろう。異業種で経験のある人材ではだめなのか。突き放して考えてみると、旅館・ホテルの仕事とは具体的にどのようなものか案外知られていない。お客さまをお迎えして心地良くくつろいでもらうための仕事、そんなイメージしか持たない人が実は案外多いのではないか。宿の実態は宿側が思うほど知られていない。

 例えば、佐賀県の手法をまねて「旅館業という職種はない」と打ち出したら、それぞれの宿でどんなことをアピールできるだろうか。そんなふうにも感じた。新卒者も必要だが、宿のさまざまなサービスの現場では社会の荒波を乗り越えてきた人材も必要なのではないか。宿と遠い存在だった職種の方なら、宿に新風も吹き込めるのではないか、そんなことを思う。

 
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