【道標 経営のヒント 276】木で造ることの意義は深い 佐々山建築設計社長 佐々山 茂


 信州の温泉地で旅館のレストランを計画しています。渓流沿いの地形の縁にあり、対岸には江戸中期のお堂を望む、この地域一番の景勝地に立地しています。

 温泉地の核となっている周辺環境に似つかわしい造りは何かと考えたときに在来木造が目に浮かびました。設計者は景観に対する社会的な責任があり、木造は鉄骨造や鉄筋コンクリート造よりも階高を小さくできるので全体のボリュームが小ぶりで、自重も軽く基礎も簡素になり、土地に掛かる負荷は小さいです。

 そもそも温泉地には木造建築が似合います。特殊建築物の旅館は建築基準法上も制約が大きく耐火建築物で造ることが多いですが、木造で造るメリットは意外に大きいと思います。

 三つ上げてみると、一つ目は、在来木造建築は日本文化であること。日本の在来木造建築は長い歳月を費やして完成された素晴らしいシステムで、棟梁の下に左官、建具、家具などの職人集団があうんの呼吸で協業することで成り立ち、木で造った美しい骨組みはそのままインテリア空間となります。地域で祝う棟上げの風習は建物が地域で認知され愛されるきっかけとなるので復活したいです。

 二つ目は地産地消で造ることが可能なこと。木材、紙、土など地元で手に入る材料で、地元の職人で良いものを造りたいと考えています。丸太から木取をするので木材には節がありますが、節が多く流通に乗せにくい木材を上手に使えばコストも下がります。そして無垢材は大切に使えば経年変化でつやが出て自然素材ならではの深みが増します。

 昨年自宅を改修した際にカタログで選ぶと床材、建具、巾木まで既製品の木目プリントの石油製品で埋め尽くされそうで、住宅は工業製品に近くなっていると思いました。地元の材料で地元の職人で造れば、地域でお金が回り、地域で愛される建物になります。

 三つ目は地球環境に良いこと。鉄骨造やRC造と比べて建設時のCO2排出量は半分以下で済むし、建設後の炭素貯蔵量は4倍にもなるといいます。国産材で建築をすることは温暖化効果ガス削減に大きな効果があり、森林資源の利活用で国土保全にも良いです。

 林野庁の事業に「木の文化・木のおもてなし」がありますが、地域の気候風土、文化に合った木造建築は訪れる人の心に響き、循環型社会を目指すにふさわしいです。木で造ることには意義が深いと思います。

 
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