【道標 経営のヒント 258】あるマインド・ディスタンス考 コンテンツキュレーター 小倉理加


 最近、昔の仕事仲間と再会できる機会が不思議と増えた。その中の1人が写真家であり、アーティストの志津野雷だ。彼は、世界中を巡って写真撮影を行う一方、地元の仲間たちと一緒に逗子で唯一の映画館「CINEMA AMIGO」を運営し、「CINEMA CARAVAN」という移動式野外映画館スタイルの作家活動を行っている。彼の映像作品と生バンドで国内外を巡るもので、ヒマラヤの途中まで機材を担いで登ったこともあるという。

 常に前向きな人物だが、彼のフィールドは世界。海外との扉が閉じている今、さすがに落ち込んでいるのではないかと心配しながら、久しぶりに仕事のオファーをしたが、それは杞憂だった。

 5年ぶりぐらいの再会だったが、変わらず焼けた肌に人懐っこい笑顔。最近の活動を聞く。「今まで、自分は海外へ出掛けて、そこの文化を持ち帰ってくるという役割だったけれど、今は地元のために根を張って活動する時期。自治体からも認められるようになって、相談案件も増えているから忙しい毎日」と目をキラキラさせて話してくれた。

 その一つに、10月に開催された「逗子アートフェスティバル」の公演があった。ちょうど予定のない週末だったので、私も出掛けてみた。地元という強みもあるだろうが、会場はほぼ満席。特別ゲストのUAの歌声とシネマ・キャラバンのバンドマンたちの演奏を皮切りにホールは異次元へと誘われ、映像が流れ始めた。時にはモノクロ、時にはカラーで旅の記憶が交錯していく。「自然の美しさを多くの人に知ってほしい。そのために映像を届けて、見た人がどう感じるか。何ができるかを投げかけている」と言うだけあり、環境をテーマにした活動の一端も見える。忙しい合間を縫って、これだけのことを成し遂げてきたことへの尊敬もあり、本当に美しく躍動する映像を目にしていたら、こみ上げてくるものがあった。終了後、破れるような拍手の中、志津野本人があいさつをした。

 「みんなに支えられていることに感謝したい。これから大切な仲間たちと一緒に豊かな人生を生きると改めて決意しました」と泣きながらかみしめるように語っていた。帰り道、なんだか気持ちが軽く、明るくなっていた。自分も何かしなければとエンジンがかかった。

 今、彼は、思うように旅ができない代わりに、この移動式野外映画館の10年の軌跡を収めたオリジナル映画サントラとパンフレットを制作予定だ。「モーション・ギャラリー」というクラウドファンディングのサイトで資金を絶賛募集中でもある。瞬時にポジティブになれるカンフル剤。もし、ご興味があれば、ぜひのぞいてみてほしい。

 
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