【道標 経営のヒント 250】ラグジュアリーノチカラ コンテンツキュレーター 小倉理加


 編集者のワードローブには“ブラック”が多い。例外にもれず、私のクローゼットも大半がブラックに染まっている。ブラックカラーはフォーマル感を演出してくれるので、どんな方にお会いするときも安心だ。半面、合わせるジュエリーやバッグによっては華やかな印象にできるので至極便利なのである。加えて、駆け出しの頃に先輩陣から言われた一言が叩き込まれているので、ついブラックに手が出てしまう。「撮影のときには、商品や窓に自分が写り込むので、必ず目立たない黒を着るように」という言葉である。

 ところが、ふとコロナ禍の下で購入した洋服やバッグ、シューズなどを振り返ってみると、見事にカラフルなものや柄物ばかりだった。20代前半以来のカラーパンツや大胆なフラワーモチーフ、ペイズリー模様のバッグなど。持つと気持ちが明るくなるものを選び、無意識にファッションの力を借りていたのである。

 化粧品でも、アイシャドウや口紅をいつも以上に手に入れてみた。アイシャドウは、今流行のマスクメイクに合わせて、いつもは使わない色に挑戦してみた。カラーを少し変えるだけで面白いほどに、印象が変わる。中東の女性が、ブルカからのぞく目元に念入りにメイクを施す理由がよく分かった。口紅も、マスクを外したときに唇に色がないと、かえって顔色が悪く見えることが気になり、今まではほとんど着けていなかったが愛用してみることにした。母は、休日に自宅で過ごすときにも、「口紅は、女性になるためのスイッチ」といって欠かさないほどだが、確かに、唇に色を差すと気持ちにもうっすら彩りが増すことに今更ながら気がついた。

 色の力を借りたのは、身に着けるものだけではない。自粛解除の後、最初に出掛けた美術館でのことだった。国立近代美術館で、現在も開催されている「ピーター・ドイグ展」である。息を詰めるように電車に乗って、まだ人もまばらな館内に入ると織物のように端正に塗り重ねられた色彩の魔法に包まれ、解放感を覚えたことが忘れられない。先に図録を取り寄せていたが、実際に目にする本物の色は、それこそ想像とは異なる感動だったのだ。友人のお土産に絵画を閉じ込めたペーパーウェイトを贈ったが、色彩に癒やされたと喜んでくれた。

 生きていく上で、ファッションや化粧品、絵画は必要不可欠なものではないかもしれない。それでも、その不要で俗にいわれるラグジュアリーなものに心を動かされ、特別な感情を持てることこそ人類の特権だと思う。ラグジュアリーの語源は、ラテン語の「光」だといわれているように、その人を輝かせると同時に、どんな状況でも心を豊かにして、「光」のある方向に導いてくれるはずだ。

 
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