最近、自宅のワインセラーの在庫が乏しくなってきた。セラーには、旅先で手に入れた特別な思い出があるワインを入れているので、旅に行けない期間が続くと飲んでも補充ができないからだ。
しかし、どうしても手を出せないワインがある。チリのワイナリー「ラポストール」の「クロ アパルタ」だ。グラン・マルニエの創始者を曽祖父に持つ、マダム・アレクサンドラ・マルニエ・ラポストールが創業したワイナリーである。件のワインは、ここに併設されているヴィラに滞在した際に求めた。
「チリは、1850年代に貴族たちがフランスからワイン用のブドウの樹を輸入した歴史があります。その後、世界的なフィロキセラの虫害でフランスの古い樹はほぼ全滅してしまったけれど、チリは影響を受けなかった。だから、フランスのワインメーカーの間では、自分たちのルーツが現役で活躍するチリに憧れがあるんです」とマダムは教えてくれた。
1992年、ついにマダムは憧れの地を訪れる機会を得た。そこで、出合ったのがアパルタの大地。ボルドーでは19世紀にすでに姿を消していたカベルネソーヴィニヨンの古木がしっかりと根を張っていた。
「とても感動したわ。畑で鳥の巣を見つけたのも幸運の前兆だと思い、この地でワイン造りに挑戦することにしました」。
初めてリリースされたヴィンテージから高評価で、たちまち著名なワイン誌で数々の賞を受賞するほどに存在感を増していった。
それもそのはず、ここではサスティナビリティをいち早く実践しており、100パーセントオーガニックであり、ヴィオデナミ農法でブドウを栽培。たる詰めは、グラビティシステムに基づいて行われる。地球温暖化防止のため、二酸化炭素排出量制限を行い「カーボン・ニュートラル」の認定も受けているこだわりだ。
「エイジングの可能性があるプレミアムワインであることを知ってほしい」とマダムは、10年間セラーで寝かせておいたワインを振る舞ってくれた。こっくりとした赤色に微かなオレンジの香りを含んだアロマ、口に含めばベルベッドのような舌触りは今でも覚えている。
その味が忘れ難く、帰国前に購入したのが当時、まだ若かった2009年のもの。
飲み頃を聞くと15年後と言われたので、2024年に開けるつもりだ。季節は桜の時期と決めている。なぜなら、その頃、南半球のアパルタはチリにしか存在しない貴重なカルムネール品種が収穫を迎え、畑の葉が一斉に真っ赤に染まる最も美しい季節だからである。
その頃には2本目の「クロ アパルタ」をわが家のセラーに迎えるためにかの地を再訪できる世の中になっていることを願いながら、4年後の春を待ちわびている。