【道標 経営のヒント 234】遠慮なければ近憂あり コンテンツキュレーター 小倉理加


 18年ほど前から苦心してきたことが、今こんな形で役に立つとは思わなかった。リモートワークである。5年ほど前まで1カ月に2回の海外出張が定着していたため、オフィスに出掛けずとも仕事を成り立たせなければならなかった。自宅か旅先かの違いはあれど、今と状況が似通っている。

 初めの頃は、インターネットもそれほど普及しておらず、ファクスや国際電話を駆使してのやりとりで本当に大変だった。ひと月の通話料が20万円を超えるということも、しばしば。コストが掛からず、迷惑を掛けない仕事の仕方を模索し続ける歳月だった。

 スカイプやスマートフォンでスキャンができるアプリなどもすぐ導入し、時差も問わず、とにかく不在を悟らせない働きを心掛けた。そのため、気がつけば、プライベートで長期休暇をとって海外へ出掛けても、ほぼ困らないようにまでなっていた。

 今回、新型コロナウイルスの影響で、日本では手つかずだったテレワークが急速に進み、「無理だと思ったけれど、やってみればできる!」と開眼した企業が多いそうだ。

 日本で今一歩、テレワークが進んでいなかったのは、先進国の中でも後進国に匹敵するほど中小企業が多いからだと言われているが、語学と同じで必要に迫られれば、人間は工夫して問題を解決できるのだ。そのため、ご存じのようにキャンプやグランピングが注目を集めるようになり、逗子にあるマリーナなどは平日にパソコンを抱えた人たちの訪問が増えたそうだ。

 現状では集まる環境は歓迎できないが、テレワーク推奨の功績で、日本人の旅のスタイルが確実に変わってきたのだ。平日にオフィスに行かなくても良いスキルを獲得した人たちは、平日に積極的に旅に出るようになるし、企業も長期休暇を検討する可能性が高い。

 少し前まで最強の免罪符であった、日本国籍のパスポート一つでどこまでもという神話は終わりを告げるかもしれないが、少したったら待ってましたとばかりに日本国内の旅やホテルの需要が急増するはずだ。

 そのときに、人気が出そうなプランといえば、「コロナ太り解消ダイエットプラン」や、「免疫力アップの食事&スパプラン」、生活リズムが乱れた人に向けた「睡眠パッケージ」だろう。睡眠パッケージは、体験したアイテムが寝具に限らず購入できるシステムになっているとなおうれしい。

 先日、ある人がこんな論語の一節を教えてくれた。「遠慮なければ近憂あり」。目先のことばかりにとらわれていると近い将来困ったことが起きるという意味である。「STAY HOME」は、必ず光がある場所へと導いてくれるもの。そして、その先のことに思いを巡らせ、みなで乗り切りたいと思う。

 
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