【道標 経営のヒント 209】大人ルール、大人の振る舞い 九州国際大学教授 福島規子


 コンビニエンスストアで弁当を買ったときに言われる一言が気にかかって仕方がない。その言葉を聞くたびにイラッとしてしまうのだ。その一言とは「温めどうされますか」である。この言葉を言われると(あなたには関係ないことです)と、つい返答したくなる。

 カウンター奥のレンジで弁当を温めるのは店員である。店員が行う行為なのに、なぜ、「される」という尊敬語を使って客に問いかけるのか。「温めましょうか」で十分、意味は通じる。

 先日、宿泊した旅館でも同じような言い方をされて、残念な気分になってしまった。その旅館では部屋に温泉が引いてあり、係が客を部屋に案内したときに、湯船に湯を張るか否かを聞くのがルールらしい。そこで、係が一言「お風呂の湯はどうされますか」と筆者に問いかけてきたのである。

 字面だけ見ると係は客に風呂に入る時間を聞いて、その時間を配慮して、湯を張る時間を判断しているかのように思えるが、実際は、そうではなかった。会話の文脈から考えても、この時の係は冒頭のコンビニ店員同様、「いま、湯船に湯を入れるかどうか」を尋ねてきたのである。

 湯を張るのは係の仕事。よって、ここでは謙譲語を使って「お風呂に湯をお張りいたしましょうか」と尋ねるのが正しい。

 敬語に限らず正しい日本語を使うことができているか否かは、時に、その人の教養の程度を測る物差しにもなる。例えば、取引先の担当者から「添付資料を拝見なさってください」と書かれたメールが届いた日には、どうしたものかと頭を抱えたくなるだろう。

 人は、年を重ねたり、立場が上になったりすると他人から間違いを指摘されることは、ほとんどなくなってくる。

 部下は、たとえ上司の間違いに気付いたとしても、あえて気付かないふりをしてその場をやり過ごすのが大人の振る舞いであり、大人社会のルールだからだ。それ故に、若いうちにたくさん失敗をして、周囲に指摘され正しい振る舞い方を学んでいくことが重要なのである。しかし、最近では若手社員同士でも「あの人は、ああいう人だから」と片づけてしまい、指摘し合うことも先輩が間違いを正すことも少なくなってきた。

 先日の社員研修でも手土産の箱菓子を受け取ったA子が、真っ先に自分の分だけを取り出し、他の社員に勧めることなくサッサと1人で菓子を食べ始めるということがあった。周囲はあぜんとしたのだが、その行為をとがめる同僚、先輩社員は誰一人としていなかった。

 次の世代に大人ルールを正しく伝えていくことも、大人の使命でありルールでもあることを忘れてはならない。

 
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