【道標 経営のヒント 208】布団からベッドへ 佐々山建築設計社長 佐々山 茂


 旅館の客室改修の案件がこのところ続いている。主室は和室10帖で押し入れには布団が5人分入っている。踏み込みで一段上がり広縁で一段下がる政府登録旅館の基準を満たす団体旅行が中心だった頃の客室改修である。

 1室当たりの利用人数が平均3名を切ってから久しいが、たまには4名5名と泊まることもある。だが団体から個人への流れは止まらず、家族連れや女性グループ以外で好んで同室になることはなくなるだろう。

 この変化の中で、2人仕様で客室を改修することが多い。120センチから140センチ幅のゆったりしたベッドを採用し、ソファーやデイベッドを置いて客室でゆっくり過ごせることを考えている。それでも旅館は4人利用の需要にこたえる必要があり、プラス2を布団か、ソファーベッドや親子ベッドにするかいつも考えさせられる。前もって布団を敷くスペースがあれば良いのだが40平方メートル程度の基準客室ではそれも無理だ。某旅館では2人に割り切り押し入れもなくし、居住性を上げてその分、料金を上げようとしている。いずれそんな時が来る先駆けになる。

 布団敷き自体にも問題がある。一部屋5分も掛けないで手早く布団を敷くのでお客側が邪魔にならないように気を使うし、ほこりが立ちそうで気持ちよくない。留守の時に部屋に入って敷かれると思うと散らかしておけないし、セキュリティーに問題がある。朝の布団上げは希望を聞かれることが多いが、朝のあわただしい時間にお客さまも旅館側も布団上げに気を使うのは生産的でない。お客側にストレスを与える付加価値につながらない作業には旅館側としても人手をかけられなくなる。

 日本人の生活そのものが大きく変わってきているので、客室の作り方にも大きな変化が生じて当然だと思う。現代人の生活パターンから、スマホやタブレットの置き場も考える必要があるし、私自身はパソコンなしではいられない。インバウンドでなくともキャリーバッグの置き場も必要だ。朝、昼、夜と照明を調節して心地よく過ごしたいし、お茶よりもコーヒーを好む人も多い。

 昔ながらの旅館に泊まったお客さまが昭和を感じて懐かしいと言い、その方向で徹底するのも面白いと思う。客室を機能性で詰めていくと旅館とホテルの違いがなくなってくるが、変化の時にある今は、それぞれの旅館に合わせて特徴ある客室を試行錯誤しながら造っている。

 
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