【道標 経営のヒント 204】自然を味方にする旅館 佐々山建築設計社長 佐々山 茂

  • 2019年9月20日

 建築の設計は考えることがたくさんある。平坦で整形な敷地の多い都会と違い、旅館の敷地は山や海の「際」にあることが多く、複雑な地形をしている。今、計画しているところも山の際と湖の際で景色が素晴らしい。言い方を変えれば景色の良いところは地形の際になっている。

 「際」に建築するにはボーリング調査をして、その土地の成り立ちが火山性なのか、海底の隆起なのか、また支持地盤がシルト、砂礫(されき)層、岩盤なのかを特定する必要がある。自然に逆らわずにその土地に合わせて安全に経済的に計画しなければならない。

 自然現象に対応することも大切だ。この夏はパリで40度を超え、ロンドンの地下鉄も冷房がなくて大変なことになった。欧州はもともと冷房の普及率が5%で、家庭では暖房しかない。北海道でも5月に35度超えとやはり冷房が普及していないので熱中症が心配になる。温暖化の影響か風水害のレベルも上がり、設計の考え方を根本的に見直す時に来ている。

 宿泊施設はさまざまな機能を集約し、お客さま動線とサービス動線が複雑に絡み合うが、生産性向上が問われる昨今は建築計画に妥協が許されない。建築基準法、消防法、公園法、営業許可などのさまざまな法律や規制に合わせる必要もある。これらの必要条件は最適解が見つかりやすく、関係者の総意を得やすいが、建築設計者として最上位で責任を持つ必要があるのは自然や景観の資本財を生かすこと。自然や景観はその土地独特なもので二つとして同じものがなく、その中でお客さまが感動を覚え、再訪したくなる空間を創ることが求められる。

 建築を建てることはその土地をよく理解し、自然を味方にすることと思う。私が若い時に設計した建物も45年が経過し、その間3世代を経ているが、いまだに現役で動き続けていられるのは、川際の地形に逆らうことなく景観を生かしたからだ。骨格のしっかりした建物は経年劣化しても価値が落ちることがない。

 元々旅館は景観の良い「際」に立地し、温泉や水などの自然資源に恵まれた無二の存在となっている。旅館はそのような場でさまざまな個性を持ったお客さまをお迎えするという今の社会では珍しくリアルな仕事である。インバウンドの影響でお客さまが世界中に広がる中、時々刻々と変化する自然を味方として、立地にふさわしい旅館の経営を支えるのが建築設計者の役割と思っている。

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