【道標 経営のヒント 189】大卒仲居の強みと弱み 九州国際大学教授 福島規子


 「1旅館3日間」の新入社員研修がようやく一段落した。今年も大学や専門学校を卒業した多くの学生が旅館業界に就職してくれた。うれしい限りである。

 筆者がコンサルティングをしている複数の旅館でも高卒の新入社員は1名だけだった。ほとんどが四大または短大卒か、専門卒だ。また、女子だけではなく男子もいる。この傾向は、ここ数年続いており、中でも学生時代のアルバイトでこなれた接客を身に付けた新人は、即戦力として使えるため現場からも熱い期待が寄せられている。

 さて、短大卒のA子さんは、大学入学と同時に居酒屋でアルバイトを始め、その中で接客業の面白さに目覚めたという。無心に働いたあとのやりきった感や爽快感がクセになったらしい。

 「スタッフの出勤が少ないのに、突然、お客さんが増えて、忙しくなる日ってあるじゃないですか。そういうときに、少ないメンバーでクレームもなく回せたときって、本当に(気分が)上がりますよね」

 そして、自身の接客技術や能力を試すために、「仲居の仕事を選んだんです」と小鼻を膨らませる。

 以前は「仲居」というと「身一つで温泉場にやって来た女性が源氏名を使って、住み込みで働く仕事」というイメージがあったが、いまや「仲居」はもてなしのプロであり、顧客に高い満足を提供する高度な専門職として、学生たちには認識されている。

 ところで、3日間の新人研修は主に三つの柱で構成される。(1)サービスについて理論的に学ぶ講義(2)接客に必要な敬語や立ち居振る舞いなどを学ぶ基礎教育、そして(3)客室案内や料理提供といったロールプレイング形式の接客訓練である。

 A子さんが苦戦したのは、(2)で習得すべき正しい敬語の遣い方だった。バイト先では、「~の方」「~となっております」といった不適切な言い方をしないよう言われただけで、敬語の種類や作り方について指導されたことはなかったらしい。

 A子さんの敬語はほとんどが自分を主体にした「謙譲語」で、相手を敬う「尊敬語」はほとんど使えない。また、敬語の作り方にしても動詞に「お~なさる」(尊敬語)や「お~いたす」(謙譲語)といった助動詞を付ける「添加式の敬語」ばかりで、添加式よりも高い敬意を示す「代替式の敬語」はおぼつかない。

 顧客のしぐさや会話から潜在的欲求を読み取るセンスもあり、仕事の組み立て方にも無駄がないA子さん。正しい敬語の遣い方をマスターすれば最強の「仲居」にも一歩近づくはずだ。「大卒の仲居」が活躍する時代の次は「外国人仲居」の時代がやって来る。しっかりとバトンをつなげるよう日本型もてなしの土台を築いていきたい。

 
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