【道標 経営のヒント 184】観光庁・宿泊業の生産性向上推進事業を終えて 佐々山建築設計社長 佐々山茂


 3月末に観光庁・宿泊業の生産性向上推進事業の報告書を提出した。3年間この事業に関わり北海道から九州まで9軒の旅館で活動したが、この間に地震、豪雨災害とモデル旅館も直接間接に被害を受け、またインバウンドの流れで潤うところもあれば、事業継続に支障を来す旅館もあり、旅館業界の縮図を見ているようであった。

 2018年度事業ではそれ以前のモデル旅館から4軒を選定、水光熱費対策に関する生産性向上の取り組みをフォローアップし、その効果検証を行った。一番効果が上がったのが青森の中規模旅館。2016年度事業で「見える化」と浴槽の循環ろ過ポンプのインバータ化を行い、「見える化」を導入したことで問題点が鮮明になり、冷温水循環ポンプのインバータ化、高断熱温泉タンクの設置と次々と取り組んだ結果、年間1千万円ほどの水光熱費の削減に成功した。

 福島の大規模旅館では設備が大きいだけに効果が出るには費用と時間が掛かるが、電気と油で6%の削減につながった。ここでは若手経営者が各職場の担当者を集めて社内エコ・小会議を主導したことが大きな成果だと思っている。最初は手探りであったが、事業を進めるにつれてメンテナンス契約費など今まで見過ごしてきたことに疑問を持つようになり、社員と課題を共有することも経営に役立っている。今後の取り組みに期待している。

 千葉の小規模旅館は電気、油で17%の削減ができた。施設規模が小さいので少しのことでも大きな効果が得られた。九州の中規模旅館はもともと省エネには積極的に取り組んでいて効果が出にくいと思っていたが、浴槽の循環ろ過ポンプのインバータ化など設備改善に積極的に取り組み、電気13%、油26%の削減効果が得られた。

 旅館は地域性が強く、ビジネスホテルとは対照的に多様性そのものだが、それを支えるインフラは無駄を省き、効率を追求すれば一つの方式に行き着くと思うが、現実は各旅館で驚くほどさまざまなシステムであった。

 増築を重ね、しかも図面がなく、旅館の経営者が自館の設備システムを理解できないほど複雑化している。現在のシステムを大きく変えられないなら、いつ、どこで、何が動いているかを「見える化」することで無駄のない効率的な運営を目指すしかないと思っている。

 安全安心なサービス、例えば適正な空調、清潔な客室、衛生的な浴室、安全な食事を無駄なく効率よく提供する仕組みを皆でつくりたいと思う。

 
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