
スマホなどマルチデバイス対応が当たり前になってから宿のウェブサイトの差別化ができにくくなったことを以前この欄で書いた。宿だけではなく一般企業も同様で、見え方が画一的だから制作に当たって悩みが多いという話も聞く。そんなことを思っていたら、このところ宿のパンフレットの増刷のオーダーが増えてきたことに気付いた。現在の原稿をそのまま増刷するのではなく、写真の入れ替えや情報の再構築などを伴うが、久しぶりにパンフレット制作が活況を帯びている。
表現スペースも情報量も自由なウェブサイトに比べて、限られた紙面上に宿の多くの特徴をコンパクトにまとめることはある意味困難であるが、かつては宿の販売促進のメインツールであり、いろいろアイデアをひねって自館らしさをアピールすることが普通の業務だった。
特にスマホのような縦スクロールのデザインでは醸し出せない「手作り感」がある。今は誰もがスマホに慣れ過ぎてしまって、瞬間的に情報を取捨選択することが当たり前になってしまっている。パッと見て、パッと次のページに移る、次から次へと情報を検索する、そんなスピードを伴う情報選択では気付かない良さがパンフレットにあるような気がする。郷土色や人の温もり、味わい深いキャッチフレーズと見ていて楽しいデザイン…、宿の方々もそれを再発見しているような気もする。
特に念入りに制作したパンフレットには思い入れも大きいのではないかと思う。ネット上でどんなにページを増やしても、その全てを閲覧してもらえる時代とは思えないし、宿選びに併用するネットエージェントサイトの画一的なデザインページに差別感があるとも思えない。
ネット販売が主流になって、いつの間にかパンフレットの存在を忘れてしまっている、あるいは資料請求のオーダーが少ないからパンフレットの制作をやめてしまっている宿も多いと思うが、今一度、パンフレットの役割を考え直してみてはいかがだろうか。建物の大掛かりなリニューアルでもない限り、基本情報はパンフレットにまとめられているはずである。つまり「ベース表現は生きている」と考えれば、情報の整理と要点のアピールをうまくこなせさえすればまだまだ役割を果たしてくれると思う。予算的にもゼロベースから制作するよりも安価で済む。変えてはならない表現があり、変えてさらに宿らしさを増す表現があると思う。
この原稿を書いている際にも電話があり、話を聞いたらパンフレットの再構築の依頼だった。