【道標 経営のヒント 143】考える術はスマホか 宮坂 学


 あるベンチャー企業から社員の能力開発に向けて勉強会を行いたいので数カ月間、講師を務めてもらえないかという要請があった。電話やメールでは真意が分からないので早速出向いた。どんな案件でも、必ず直接会って相手の顔を見て話すことを信条としている。便利だからとメールやSNSに頼るコミュニケーションだと大切なコトに気づかないし、相手の熱意や意欲なども伝わってこない。

 その企業が求めているのは、若手社員の発想力のスキルアップだった。彼らにとって前任者の存在はその企業内で生き抜いていくためのひとつの指標といえるべきものだが、それにこだわるあまり、新たなビジネスシーズの開拓への意欲がみられないという。取締役たちも「前任者たちの方策を踏襲した仕事への取り組み方には不満だ。そうした固定概念みたいなものを取っ払ってくれ! 部ごとやグループ単位での集団的発想の企業構造ではなく、社員同士が個々の発想で意見を戦わせる企業構造にしたい」という。そのための方法論は任せるという。

 第1回は参加者全員の意識調査に終始した。一人ひとりに尋ねたのが「新しいコト・モノを考えるとき何を参考とするか」というものだ。圧倒的に多かったのが「まず、スマホやパソコンでいろいろ検索してみる」という回答だった。「では、どんな検索をしているのか」が次の質問だ。思いつく限りの関連ワードを思い浮かべながら、というのがどうやら方法論らしい。では、ひとつの事柄に関してどれくらいのキーワードを思い浮かべるのかと尋ねると、ほとんどが5ワードだという。彼らはそれが少ないとは思っていない。それ以上は出てこないという。

 その段階で「発想力の拙さ」ということが参加者共通の問題として浮かび上がった。ちょっと意地悪な質問も加えた。「では、スマホやパソコンを使用しないで発想するとしたら、どうするのか」というものだ。参加者同士、顔を見合わせるばかりで誰からも返答がない。しばし無音の時間が流れた。

 そのときに思い浮かんだのが、スマホを絶えず使用していることによる「スマホ認知症」だ。脳全体の司令塔ともいえるのが、思考、運動、創造などをつかさどる前頭前野。MRIで検査するとそれがフリーズした状態になっている若者が増えているという。それが原因で引き起こされるのが思考力や発想力の低下。考えることをしなくなってしまうという。参加者もほぼ1日スマホを手放すことはないという。認知症予備群たちとの闘いは始まったばかりだ。

 
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