【道標 経営のヒント 134】銭湯好き 石井敏子


 銭湯が好きだ。墨田区生まれで内風呂がなく、家の前の通りを渡った銭湯に生まれた頃から通っていた。清潔を保つ目的ではなくほとんどが遊びだった。弟と番台のご主人の目を盗んでは潜ったり、お風呂後のコーヒー牛乳だったり、寒い冬の時期の銭湯前のおでんの屋台だったりが主な目的だった。だから銭湯に行くとよくその頃を思い出す。何だか無欲ですごく幸せだった頃が、大きな湯船に浸かると壁面の富士山と共に蘇ってくる。

 昨年末東京都産業労働局による公募事業「RYOKANブランド構築、発信事業」地域、グループに応募した。この事業は「外国人旅行者と地域をつなぐ観光の拠点としての「旅館」の機能の充実を通じ、東京の旅館ブランドの構築と発信体制の強化を図る取組に対し、支援を実施する」と、いう内容で期間限定の事業だ。銭湯好きの私としては、これ以上銭湯が私の周りでなくなってほしくない。廃業する理由はそれぞれだと推察するが、単純にお客さまが増えることが一番の継続になるのだと思った。そこで当初は城崎温泉のように「東京銭湯1日周遊券」ができないかと、全国公衆浴場組合と昨年の夏ごろから交渉を行ってきた。しかしいろいろな理由で1日券は無理ということになり、「東京銭湯券3枚セット」、行燈旅館宿泊者に限り販売するということで落ち着いた。応募したところ、審査にパスした。行燈旅館周辺にはいまだに10軒以上の銭湯が歩いて20分圏内に点在している。それぞれが個性的で楽しい場所だ。1軒では魅力がなかなか伝わらないが、3軒回ってくれればその魅力が十分伝わると思ったのだ。

 2月の中旬からスタートして先日スペイン人のお客さまが到着早々この券を買ってくださった。翌日感想を聞くと大変喜んでくださり、「長いフライト後の銭湯は格別で、汗をたくさんかいておかげさまでぐっすり眠ることができた」と、感激してくれた。

 初めて来た異国で、まして浴場で裸になる行為はある意味勇気がいる。女性ならなおさらだ。私もトルコに行ってハマム(トルコ式サウナ)に行ったことがあるが、添乗員の方にくれぐれも貴重品に気を付けるように念を押され、恐る恐る出かけて行った経験がある。ホテルの人が一度中に入ることでお客さまにも安心を与えられる上に、何か困ったことがあってもホテルに戻って解決していただけると思うと冒険もより楽しくなると思う。たった1軒でのスタートだが、地道に続けることで、三ノ輪のローカルな魅力と共に、私のような「銭湯ファン」を確実に増やしていきたい。

 
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