【道標 経営のヒント 121】白い歯を見せて笑うのはNG 福島規子


 慢性的な人手不足に悩む観光旅館では、接客の最前線を務める「仲居」の仕事を男性従業員に担当させるなどさまざまな取り組みが行われている。

 「仲居は女性の仕事」という常識にはこだわらず、若手から中高年までの幅広い年齢層の男性スタッフが会食場や宴会場で飲料提供のサポートをしたり、状況によっては男性仲居として料理を提供したりと八面六臂の活躍だ。筆者もここ数カ月は、複数のクライアントで男性従業員を対象にした接客訓練を実施している。日常生活とは異なる体の使い方に、戸惑う男性スタッフも多いが、立ち居振る舞いや所作は、ちょっとしたコツを習得すれば誰でも美しく様になる。

 たとえば、お辞儀をする際は立礼、座礼ともに背筋を伸ばし、腰から上体を折るようにゆっくりと前傾していくと品良くまとまる。また、方向を指し示すときは指先をそろえる、話すときは大声を出さずに丁寧な言葉遣いを心掛ける、無精ひげや口臭、体臭への気遣いを忘れないといったことを忠実に実践していけば、和のもてなしのプロになれる日も遠くない。

 だが、中高年の男性従業員の場合、ひとつ大きな問題がある。笑顔だ。懐かしの韓国ドラマ「冬のソナタ」のヨン様のように歯を見せて華やかな笑顔を作れる人は稀で、ほとんどの人は口元を横に一文字に結んだままで表情に乏しい。

 ところが、最近、この「歯を見せた笑顔」についてユニークな調査結果が発表された。外傷や病気による顔面麻痺のせいで表情変化が乏しくなった人の表情再建を行う専門家、ミネソタ大学のナサニエル・ヘルウィグ博士は、「どのような笑顔が最もいい笑顔なのか」の研究で興味深い結論を導き出した。

 同博士によると笑顔を本物だと感じなおかつ心地よい気分にさせる笑顔を作るには三つの留意点があるという。(1)歯をほとんど見せない。(2)口角を13~17度上げる。(3)口を横に広げすぎない。「微笑よりももう少し笑っている」程度の笑顔が最も素敵な笑顔らしい。

 逆に評価が低かったのが「歯を見せた笑顔」だった。特に「歯が見えている範囲」が大きくなればなるほど「大げさすぎる」「見下されている」といったマイナス評価が高くなり、相手は軽蔑されている気分になるという。加えて、左右の口角や顔の動きが非対象の場合も笑顔としての評価は低い。

 中高年の男性従業員が目指すべき笑顔は、歯を見せて笑ううわべだけの笑顔ではない。内面からにじみ出るような本物の笑顔だ。その人が歩んできた豊かな経験と人生の深みに裏打ちされた接客力が、顧客満足度を上げ、旅館全体の評価を変えるのだ。笑顔は作るものではなく、顧客と相対しているうちに自然とこぼれ出てくるもの。歯を見せたビジネススマイルでは、心からの笑顔を引き出すことはできない。お客さまと一緒に笑顔になる。接客の極意は、ここにある。

 
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