【道標 経営のヒント79】安心安全は万人のため 池田千博


 宿のバリアフリー化状況をみると、ロビーや客室など、施設の一部では対応してきているようだが、車椅子のお客さまが来館されたときから始まる全体的な動線を考えると、まだ不備な部分が多いと思う。

 また、バリアフリー化されていたとしても、身障者や高齢者を別扱いするような対応もみられる。悪例は、離れた場所に車椅子用駐車場を設け、車椅子のお客さまを裏口のような専用入口から通すケースだ。できれば車椅子用駐車場をエントランス付近に設け、健常者と同様に正面玄関からお迎えするように配慮するのが望ましい。

 その場合、駐車場の床を石貼りにして機能を損なわないようにしつつも、エントランスの庭と一体化するデザインとしてみてはいかがだろう。風が抜ける開けた庭を造るイメージだ。

 客室も見直したい。高齢者に支障になりがちな和室の踏込段差は、上り框の横にスロープを設置すれば解消できる。小さな段差は上下段が同系色だと目立たず、事故にもつながるため、材質の色を変えたり、段の先端に照明を入れるのもいい。

 トイレはおもてなし空間として捉え、間接照明やスライド式折扉を採用するなど、無機質なイメージを払拭したい。

 大浴場では、誰もが安全安心に楽しめるような気配りのデザインが必要だ。段差へのスロープの設置や、各浴槽の縁や通路、段差のある箇所への手すりの設置などは標準仕様として考えたい。床は水や石鹸水によって常に転倒の危険をはらんでいる。耐久性を考慮して利用される石やタイルも、ポリッシャーなどによる日々の清掃や人体の油脂分によって長期的には滑りやすくなる。また、防滑性を重視するほど掃除がしづらく、素足の歩行感に違和感が生じていく。それだけに床材を選ぶ際には、特性を見極めなければならない。

 石材はバーナー仕上げのミカゲが多いが、5~10年ほどで滑りやすくなる例もあるため小叩き程度としたほうが防滑効果が長引く。既設の床の改善策としてはノンスリップ目地を現場施工したほうが防滑には確実だ。

 タイルは既製品から選定する際、使用条件に適合するかを確認したい。木質系は露天風呂に多い木材のすのこが表面張力で水が溜まった状態になるので、板幅を狭くする、溝加工をするなど、防滑への注意を払いたい。

 人工木材を採用する場合は、貼り方向を歩く方向に対して溝付きのタイプにし、可能なら水勾配を取るようにすると良い。

 バリアフリーへの気配りは身障者や高齢者のためだけのものではない。万人への安心安全も大切なもてなしと考えたい。

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