旅館・ホテルの黒字化を図るにあたって、最も苦労するのが中規模(40~80室)である。立地に恵まれていたり、社長や女将、番頭役が卓越した商才を持っていたりすれば高収益化も不可能ではないが、平均的な努力では投資回収するための十分な収益を獲得することは困難であるのが現実である。
このことは、平均的な中規模旅館・ホテルの収支に基づいて、投資回収のシミュレーションを作ってみると容易に理解することができる。
例えば、総投資20億円(土地代含む)で50室の旅館を新設するとしよう。1泊2食料金1万5千円、1室当たり宿泊者数3人、客室稼働率60%と設定した場合、平均的な人件費、水道光熱費、送客手数料、固定資産税、消耗品費、修繕費などを支出すると、償却前利益は1億円にも届かず、利息や元金を支払うことができないということが分かる。
平均的な努力では投資回収できない中規模の旅館・ホテルを、どうすれば高収益体質にできるか。その鍵は業態戦略にある。今回コラムでは、さまざまな業態の選択肢を示しながら、どの戦略が高収益体質につながるのか説明しよう。
1、格安・高稼働戦略
1泊2食料金を1万円に引き下げる一方で、稼働率90%を目指すという戦略である。実際に、競争の激しい温泉街では、各館が値引き合戦を行った結果、格安路線の館ばかりになるケースがある。
この戦略をとった場合、稼働率は60%から90%に上昇しても赤字幅は拡大し、銀行返済はより遠のくことが分かる。格安路線でも生き残れるのは、中古物件をリノベーションすることで初期投資を抑えた格安旅館チェーンか、スケールメリットを生かせる大型旅館・ホテルだけである。
2、高単価戦略
ハード、ソフトの商品力を高めることで、1泊2食料金を2万3千円まで高めるという戦略である。この場合は、1室当たり宿泊者数2人、稼働率60%でも利息や元金を返済し利益を残すことができる。
このことから、中規模旅館・ホテルが格安・高稼働路線を取ることは収支をより悪化させることにつながるため、追加投資を行ってでも、高単価戦略をとったほうが賢明であるということが分かる。
今回、エクセルで作成した業態別損益シミュレーションを読者サービスとして無料でご提供する。ご興味がある方は、aokiy@y-bc.co.jpまで「業態別損益シミュレーション希望」とタイトルをつけてメールを送ってほしい。
(山田ビジネスコンサルティング事業企画部部長)