2023年は、観光業界にとって本格的な復活の年であった。政府の5類移行方針の発表により、業界の正常化への期待が高まった。ゴールデンウイーク後には、アクリル板仕切りや来店時の検温と消毒の要請が不要になり、観光客の心理的障壁が消失したこともあり、旅館・ホテルの客室稼働率は新型コロナ流行前の水準に戻った。
円安の進行に伴い、インバウンド観光が急回復し、都市部の宿泊施設では客室不足による宿泊料金の高騰が見られた。しかし、物価高騰や人手不足の影響で、業界全体としては売り上げ回復にもかかわらず、経費増加により期待通りの利益を得られなくなっているとの声をよく聞く。
今回のコラムでは、2024年の観光業界において取り組むべきポイントを解説したい。環境の激変が予想される中で、時流を捉えた施設づくりを目指していきたい。
(1)金利上昇に備える
宿泊業界にとって、今年最大の懸念事項は金利の上昇である。日本旅館協会の調査によると、2019年の旅館業界の平均売上高は6.8億円、営業利益は900万円、減価償却費は3900万円、支払利息は1400万円、そして長短期借入金は10億円であった。これらのデータから、売り上げに対して借入金が多く、金利負担が既に重い状態であることがわかる。実際、債務償還年数は19年と算出されている。
金融機関では、金利上昇を見越した動きが既に始まっている。新規のプロジェクト融資では、将来の金利上昇を考慮した事業計画の提出が求められるようになっている。また、既存借り入れの返済条件変更の際には、金利が従来の倍以上になるケースも聞く。多くの金融関係者は、利上げは避けられないとの見解だ。
金利上昇が現実となった場合、宿泊業界への影響は計り知れない。みずほ銀行のグループ会社、みずほリサーチ&テクノロジーズ社による試算によれば、2026年度末に長期金利が0.7%から3.5%に上昇すると、宿泊・飲食業の経常利益は約55.7%減少すると推計されている。特に、資本金1億円以下の企業にとっては影響がさらに大きく、約75.1%の減少が見込まれる。
来るべき金利上昇に備える方法については、次回のコラムで詳しく説明したい。
(アルファコンサルティング代表取締役)