本年年明けから観光業界を苦しめてきた新型コロナウイルスの感染拡大は、ようやく終息の兆しが見えるようになってきた。すでに39県では自粛要請が解除され、日常生活を取り戻しつつある。残る8都道府県についても緊急事態宣言の解除時期を見計らっている状況にある。早ければ5月中より段階的に自粛解除が進められるだろう。皆さまの旅館・ホテルにおいても本格的な営業再開に向けて準備を進めていることと思う。
一方で、新型コロナウイルスの感染抑制を目的とした強烈な自粛要請や衛生指導は、消費者の生活様式や価値観、嗜好を大きく変えてしまった。従前のコンセプトや運営方針、商品サービス、ハード設備では宿泊者の満足が得られない可能性がある。今回コラムでは、アフターコロナ時代に取り組むべき施策について紹介したい。なお、衛生対策については、すでに各種団体よりガイドラインが提供されているので割愛する。
(1)安全だけでなく安心感を与える施設づくり
来館者の制限や手洗いの徹底、手指の消毒設備の設置、マスク着用、館内の消毒、定期的な換気を行うのは当然のことである。感染症対策だけでは、宿泊先の積極的な選択理由にはならない。感染リスクの低い安全な施設であると分かるだけだからだ。むしろ衛生対策の過度なPRは、お客さまに緊張感を与えてしまう可能性がある。安全だけでなく、安心感を与える施設づくりが望ましい。
例えば、ホワイトマスクやN95マスクを着用した客室係がエントランス付近に並んでお出迎えすると、お客さまはどのような印象を受けるだろうか。人によっては緊張感を感じる可能性がある。和装やユニフォームに合った布製マスクやマスクカバーを使用すると印象が良いだろう。
フロントやレストラン会場で飛沫感染を防ぐためのカバーも演出を工夫したい。スーパーマーケットやコンビニなどで使用しているビニールカーテンをそのまま使用すると非日常性を損なう可能性がある。衛生面に配慮しながら、デザイン性のある塩ビ板やカーテン、パーティションを使用することにより会場の落ち着いた雰囲気を損なわないよう気を付けたい。
施設のリノベーションを行う場合には、消費者嗜好の変化を踏まえることをお勧めする。開放感のあるパブリックや食事会場、屋外空間との連続性のある施設、第三者との接触が少なくプライベート感を感じさせる客室、接触機会の少ない建具・調度類などが好まれるだろう。
(2)最低6カ月分の運転資金の確保
新型コロナウイルスが終息しても、しばらくは低稼働、低単価による赤字で現預金の減少が続くことが予想される。資金繰りの心配が絶えない状況になると、前向きな施策を行うための気持ちの余裕がなくなる。今のうちにさまざまな融資制度を活用して十分な現預金を確保しておきたい。
少なくとも償却前営業利益のマイナス分、元利金弁済分の6カ月分は確保しておくことをお勧めする。金融機関によっては必要資金の3カ月分しか一度に融資してくれないことがある。本年2月、3月ごろに借り入れしたものの、今後資金不足が見込まれる場合には、改めて融資申し込みすると良いだろう。
(3)低稼働でも赤字を最小限とする費用構造
旅館・ホテル業は固定費率(売上の増減に関係なく発生する費用の合計÷売上高)が高い業種である。好況時は利益率が高くなるが、不況時には莫大な赤字を抱えやすい。低稼働でも赤字を最小限とするために、固定費の削減を徹底的に行うことをお勧めする。
固定費として代表的なものは、人件費、業務委託費、リース料、広告宣伝費、光熱水費(基本料金)、修繕費、保守料である。取引先との関係や費用対効果、他サービスによる代替性を考慮して選別することをお勧めする。サブスクリプション型のサービスは、解約まで半年から1年要することもあるので、経費見直しする際には解約可能な月を調べておきたい。
(4)顧客ターゲットの大幅な見直し
観光を目的とする宿泊客は、小商圏の反復需要を狙うと良いだろう。公共交通機関を避ける傾向にあり、自家用車での来館が前提となるからだ。県内もしくは近隣都道府県に住む個人客に何度も宿泊してもらえるよう来館促進することをお勧めする。
ビジネスを目的とする宿泊客は実需層を狙うと良いだろう。自粛下でZoomやスカイプによるウェブ会議が普及し、今後も積極的に利用されると見込まれることから、市場規模は元どおりに回復しない可能性がある。工事や催事、イベント、定期点検など目的地へ実際に訪問する必要のあるビジネス客を見極めてターゲットとすることをお勧めする。
(5)BCP策定による再燃期への備え
伝染病はいったん終息してもウイルスが消滅するわけではない。再度流行するリスクがある。有効なワクチンが実用化されていれば良いが、そうでない場合は再びメディアで大きく取り上げられ、旅館・ホテルの集客に悪影響を及ぼす可能性がある。いつ再燃期が来てもスムーズに対応できるよう今のうちに準備しておきたい。対応方針を決めるに当たっては、中小企業庁が公表している「中小企業BCP(事業継続計画)策定運用指針」を参考にすると良いだろう。
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(アルファコンサルティング代表取締役)