【逆境をチャンスにー旅館の再生プラン 463】失敗しないM&A戦略2 アルファコンサルティング代表取締役 青木康弘


 前回に続き、M&Aの実施に当たり失敗しないためのポイントを紹介しよう。事業拡大、発展のチャンスとなる成功事例もあるが、中には本業の業績悪化につながった失敗事例も出てきているので注意したい。

 2、譲渡希望価格を鵜呑みにしない

 M&A取引で重要な論点となるのが譲渡価格である。不動産取引と異なり明確な相場がない上に、価格決定に影響を与える要素が非常に多い。利害関係者によって適正と考える価格も異なる。売主や取引金融機関、仲介会社が主張する価格が妥当とは限らないので注意しよう。

 売主は、土地建物簿価を譲渡価格の目安とするケースが多い。例えば、開業時の簿価が10億円、減価償却累計額が4億円と仮定すると、6億円以上が希望額となる。転売物件の場合には、購入額にリノベーション投資額を足して減価償却累計額を引いたものが目安となる。

 売主が不動産投資家の場合は、収益還元価格を目安にすることが多く、極端に割高な希望価格を提示されることがあるので注意が必要だ。

 取引金融機関は、有利子負債に優先債権、譲渡に伴う諸経費を足した額以上というのが目安になる。譲渡代金で借り入れを完済してもらうことが前提となるからだ。信用格付けが要管理以下で貸倒引当金を計上している場合には、借り入れ完済できない水準での売却を承認することもある。

 仲介会社は、同一の会社が売主、買主両方のアドバイザーとなる場合(双方代理)は、譲渡価格の妥当性よりも取引成立が優先されるので注意が必要だ。相場より高くても売れると思えば買主に不利な条件でも取引させようとするインセンティブが働く。反対に、値下げするならば即決すると買主が言えば売主に不利な条件でも売るよう説得するだろう。

 このように、売り手側の関係者間でも思惑に違いがあるため、価格の妥当性は買主が独自に検証することが大切だ。検証の着眼点は、建物・設備の状態、将来の期待キャッシュフロー、更新投資の必要額、期待利回り、投資回収年数、買収資金の銀行返済年数である。これらの論点を考慮して事業計画を作れば、譲渡価格はいくら以下でなければ成り立たないか、自ずと算出することができるだろう。

(アルファコンサルティング代表取締役)

 
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