【食と観光 訪日客4000万人時代の和食 5】さらしに座る外国人客に日本食の奥深さや醍醐味を 志村久弥


 活け車海老を生簀から取り出し「こちらをお揚げします」とお客さまにお見せし、そこから下ごしらえをして、おもむろに天麩羅を揚げ始める。「天ぷら 新宿 つな八」で長年行われている車海老の「儀式」である。

 活け穴子、鱚(きす)をはじめ、魚類や季節の野菜も、繁忙の状況にもよるが、なるべく注文を伺ってから、お客さまの目の前で捌いてから天麩羅を揚げ始める「流儀」を90余年間大切にしてきた。

 胡麻油の香りが立ちのぼり、ネタを油に入れた時、ジュワジュワという音色が奏でられ、職人と天ぷら鍋のネタとの競演に、目の前のお客さまは釘付けになり、さらしであるカウンター越しに、五感で感じながら天麩羅の醍醐味を堪能される。今でこそオープンカウンターと呼ばれたり、五感で感じることをシズル感と呼んだりするが、日本食における寿司屋と天麩羅屋は、当たり前の様にこのさらしの商売にこだわり、意味を大切にしてきた。

 大正13年に創業した祖父久蔵は「さらしは歌舞伎の舞台だよ。職人は役者だよ。見られていることをいつも気にしなくちゃ」と白衣をはじめ身だしなみにも気を遣いながら、軽く薄化粧してさらしに立ったとも聞いている。

 時が巡り、平成の御世。訪日外国人が多く来店され、さらしにこぞって座り、一斉にシャッターチャンスを伺いながらスマホを片手に天麩羅を食する風景は日常化し、そこから即座にSNSに上げる手際も当たり前となった。彼らがさらしで何を感じ、何を思うかは定かではないが、日本の食文化の奥深さや醍醐味の片鱗でも嗅ぎ取ってくれれば、草葉の陰で久蔵も、きっとにんまりと見栄を切っていることだろう。

 (国際観光日本レストラン協会常務理事・関東支部長、株式会社綱八代表取締役社長 志村久弥)

 
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