5月25日、緊急事態宣言が全面解除された。6月19日からは全国の移動解禁も認められそうで、新型コロナウイルスの第2波を警戒しながらの経済活動が始まる。業界関係者も安堵(あんど)の表情を浮かべる。
コロナ禍で宿泊業は大きなダメージを受けた。少しでも減らそうと、テークアウトなどを試みる事業者もあり、試行錯誤を続ける。そんな中、将来の宿泊費の一部を前払いすることで資金繰りを支える旅館サポーター制度がインターネット上で広がっている。
この制度は「種プロジェクト」。仕掛け人は宿泊施設のホームページ(HP)制作や口コミサイトなどを運営している富山県在住の男性だ。
HP上で「将来の宿泊のために、いま支払いませんか? 自分の好きな旅館のサポーターになり、将来の宿泊料金の一部を前払いする制度です。そこで働く皆さんにささやかながら安心を届けられるかもしれません。『必ず泊まりに行きますよ』の応援メッセージとともに、お金以上のものを届けましょう」と呼び掛けている。
HPには支援を受けたい宿泊施設が登録されており、支援者は応援したい施設のサポーター(一口5千円)に登録し、将来の宿泊費の一部を前払いする。その後、有効期限3年間の「サポーター証書」を受け取り、証書を示して泊まれば、前払い分が減額される仕組みだ。
支援金額は売り上げをカバーするほどの額にはならないだろうが、「応援してくれる人がいる」「コロナが収束したら必ず泊まりに来る人がいる」と思えば、旅館経営の励みになるのではないだろうか。新しい宿泊のかたちになるのかもしれない。
登録している群馬県の旅館女将は「著名人も発信しているので安心して参加できた」と話す一方、「あまり聞いたことのないサイトは断っている」という。ネット社会は善意で成り立っているとは限らない。安易に飛びつくのは避けたいところだ。
似たような取り組みは飲食業の世界でもあり、3月に「さきめし」という飲食店応援プロジェクトがスタートしている。外出自粛などで今は行けない自分のお気に入りの飲食店に食事代を先払いし、コロナの影響が落ち着いた時期に食べに行こうという活動で、サントリーグループも賛同している。
宣言が解除され、旅行機運も出てきそうだ。前述の女将は「これからは旅行に来ていただく方にシフトしていく」と話す。リアルへの対応だ。しかし、第2、3波の可能性もいわれる今後、種プロジェクトのような新しい芽がなくなってしまうのは惜しい。選択肢の一つとして残ってほしいものだが。
種プロジェクトに参加する施設も増えている(写真と本文は関係ありません)