地震や台風などの自然災害で被災した人々の生活や心のよりどころとして、宿泊施設はこれまで大きな役割を果たしてきた。
例えば、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連)は災害時に高齢者や障害者を一定期間、組合旅館・ホテルで受け入れる、自治体との災害協定締結を各地で推進するなど、社会貢献に尽力している。
昨年10月の台風19号は各地に大きな被害をもたらしたが、福島県と県旅組は避難所に避難している要配慮者(高齢者、障害者、乳幼児その他特に配慮を要する者)とその家族を旅館・ホテルで受け入れた。多くの人に感謝されたことは言うまでもない。
いま、日本は新型コロナウイルスによって未曽有の危機にある。感染者が急増している地域では医療機関の受け入れがひっ迫していて、重症患者の治療ができにくくなっている。そのため、厚生労働省は2日付で、軽症や症状がみられない人について、自治体の用意する施設やホテル、自宅で療養を検討するよう都道府県などに通知した。重症者に対する治療を優先するのが狙いだ。
厚労省の通知を受け、自治体が宿泊施設の借り上げに動き、手を挙げる施設も出てきている。
東京都は7日、感染した入院患者のうち、無症状や軽症の人について「東横INN東京駅新大橋前」での療養に移行してもらうと発表した。ホテル1棟全て借り上げていて、100人程度の受け入れが可能だという。
東横インはホームページで「1棟貸しで、専門家の管理の下、医療体制を整えて対応いたしますので、近隣の皆さまにご迷惑をおかけすることはございません。一般のお客さまと感染者の方が同じホテルに滞在されることはございません」と告知している。
アパホテルも6日、「スタッフの安全を図ったうえで、全面的に受け入れる意向」を示し、「国難ともいえる新型コロナウイルスに対応する」と表明した。楽天の三木谷浩史会長兼社長もホテルの無償提供を提案している。
無症状や軽症とはいえ、感染のリスクがないわけではない。施設の従業員も不安はあるだろうし、風評被害の懸念も消えない。
NHKによると、埼玉県旅組は「安易なホテル・旅館の利用は感染の恐れがあり、到底受け入れ難い」とした上で、やむを得ず協力を求める場合は、感染防止対策や補償などの条件を話し合って決めることなどを求める要望書を県に提出した。
もっともな要望だろう。宿泊施設が犠牲になっていいはずはない。宿泊施設に社会貢献してほしいが、無理強いはできない。何とも難しい問題だ。
軽症者などの受け入れを表明した東横イン(写真と本文は関係ありません)