
仙台圏で観光型MaaSの構築に向けた取り組みが始まった(仙台駅)
鉄道やバス、タクシー、カーシェアなど、あらゆる交通手段をデジタルで統合し、シームレスな移動を実現する「MaaS(マース=モビリティ・アズ・ア・サービス)」を観光に生かす取り組み(観光型マース)が始まっている。
国土交通政策研究所によると、マースは新たな移動の概念で、利用者はスマートフォン(スマホ)のアプリを用いて、交通手段やルートを検索、利用し、運賃などの決済を行う例が多い。2016年にフィンランドのヘルシンキからサービス提供が始まり、世界に広がったといわれている。
マースの取り組みで先行感があるのは鉄道系で、特にJR東日本の積極性が目を引く。
今年4月。JR東日本と東京急行電鉄、ジェイアール東日本企画は伊豆エリアで静岡デスティネーションキャンペーン(DC)にあわせて観光型マースの実証実験(第1弾は4~6月、第2弾は9~11月)を開始した。
実験にあたっては、新たに開発したマースアプリ「Izuko(イズコ)」を使用している。
イズコは、鉄道やバスなど複数の交通手段を組み合わせた経路検索のほか、伊豆急下田駅周辺で新たに導入されたAIオンデマンド乗り合い交通の配車予約、対象エリア内の交通機関が2日間乗り放題になるデジタルフリーパス(2種類)や約30施設の割安チケットの購入までが完結する。その多機能ぶりは驚くばかりだ。
デジタルフリーパスの「Izukoイースト」は伊豆急全線(伊東―伊豆急下田)と伊東市および下田駅周辺の路線バスが乗り放題で3700円という安さ。こうしたユーザーメリットもあってか、実験開始後57日目の5月27日には目標の2万ダウンロードを早くも達成。「3倍強の早いペースで来ている」という。
また、5月30日にはJR東日本と宮城県、仙台市が観光型マースを仙台圏で構築するための検討会を立ち上げると発表した。
スマホのアプリ内で複数の交通手段や観光・宿泊施設、飲食・物販店などの情報検索から予約、決済までできるサービスの提供を目指すもので、幅広い企業・団体に実証実験への参加を求めている。今後、実証実験を重ね、21年4~9月に開催される「東北DC」での活用を目指す。
JTBもオンデマンド・リアルタイム配車サービスを提供する未来シェア社と手を組み、観光地を拠点とした観光型マースのオペレーターを目指すという。
観光型マースがどう業界地図を塗り替えていくのか。新たなビジネスチャンスと捉え先行する企業も出始めている。「マース」という言葉は観光立国のキーワードの一つといえそうだ。
仙台圏で観光型MaaSの構築に向けた取り組みが始まった(仙台駅)