【観国之光 234】観光公害 立国実現の不安の種 本社論説委員 内井高弘


観光公害がこれ以上深刻化する前に対策を講じる必要がある(写真と本文は関係ありません)

 観光立国の歩みが確かなものになるにつれ、新たな問題が浮上している。「観光公害」「オーバーツーリズム」といわれる現象だ。

 今は一部の観光地に限られているが、これ以上深刻化する前に、何らかの対策を講じる必要があるだろう。

 観光公害はこれまでのような海や山でのごみの投棄、施設や道路の建設などによる自然破壊といったものにとどまらず、最近はそこに暮らす人々の生活そのものが脅かされるケースが増えているのが特徴だ。

 電車や路線バスが混み合い、住民の通勤通学に支障が出ている、渋滞で車が走れない、写真を撮るために家の庭までずかずかと入ってくる、たばこを平気でポイ捨てする、民泊する外国人が夜中まで騒ぎ、ゴミを無造作に捨てる、ルールを守らない…。挙げればきりがない。

 観光公害という言葉は、外国人旅行者増加に伴い、日本の文化やマナーに対する無理解や誤解がもとになってクローズアップされた感があるが、日本人の中にも無神経な、マナーの悪い人はいることを忘れてはならないだろう。日本人も襟を正すべきだ。

 観光公害は外国でも問題となっている。観光大国スペインには世界中から多くの観光客が訪れるが、バルセロナ市では日常生活が制約される事態に市民も怒り、市長選ではホテル建設凍結を訴えた人が当選したという。観光客が集中する地域で宿泊施設の新規立地も認めない制度も導入したとか。

 欧州では反観光運動が起こり、受け入れ抑制に乗り出す都市も出ているともいわれる。

 日本ではさすがにこうした動きはないが、観光客と住民との摩擦が高まれば、観光客にとって居心地のいい場所とはいえなくなる。ひいては観光客の足が遠のき、地域の活力が弱まりかねない。観光は地方創生の切り札、ともいわれるが、これでは逆効果である。

 観光公害の深刻さが際立つ京都。外国人旅行者も群を抜いて多く、必然外国人がらみの問題も多く発生する。トラブルを避けるため、外国人の入店を制限する店も出ている。市民からは「行政や旅行会社は事前に文化やマナーをしっかりと教えてほしい」との声も出ている。

 京都市では「京都のあきまへん」と題する外国語のリーフレットを配布してマナー違反防止に努めているが、十分に浸透しているとはいえない。

 政府・観光庁は観光公害の実態を把握し、どういった手を打てば観光公害をなくす、減らすことができるのかを考えてほしい。平穏な住民生活と観光との共存なくして真の観光立国とはいえないだろう。

観光公害がこれ以上深刻化する前に対策を講じる必要がある(写真と本文は関係ありません)

 
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