【観光立国復活への提言】東武トップツアーズ 代表取締役会長 久保成人 氏(第4代観光庁長官)に聞く


東武トップツアーズ 代表取締役会長 久保成人 氏(第4代観光庁長官)

多様化の動きがより鮮明に 「本物」提供で、価値向上を

 ――コロナ禍終息期の旅行の動向をどのように捉えているか。(聞き手・内田誉紀)

 「日本人の国内旅行について、個人的には、コロナ前から変化しつつあったが、コロナで空白の約3年間があったため、結果として大きく変化したように見える、と考えている。これまでは『平均的な人々がいて、平均的な旅行をする』という傾向が強く、旅行業者や観光関係者もその平均的な人たちをボリュームゾーンだと思って対応してきた。その流れにコロナ禍前から変化が生じていた。行動や旅行の目的が細分化している」

 ――具体的には。

 「富裕層であれば『お金はあるし旅行にも興味がある人』『お金はあるけど旅行にさほど興味がない人』に分かれ、実際に前者はさほど多くない。後者に多種多様な商品を提供すれば旅行の消費額等が増大すると思う。国内外問わず面白いテーマを設定し、『こんなのどうですか』と提案すれば、行く人は行く。また、『さほど余裕がないけど旅行に大変興味がある人』は、こだわりや経験があるので自分で調べ、積極的に旅に出る。それらの人々にもニーズに応えられる商品を提供できれば良い。『あまり余裕がないし旅行に強い興味はない人』には従来のパッケージツアーのようなリーズナブルな提案が効果的だと思う。このような区分のもとで人が行動するようになるので、観光関連各社はうまく対応する必要がある」

 ――インバウンドについて。

 「宿泊日数や消費額等、2023年の数値が出ればより明確になると思うが、インバウンドはもう一括りにできない。どこから来日するかについても多様化し、人も多様化し、趣味志向も多様化しており、現在はインバウンドを一律に語れない」

 ――日本がするべき対応は。

 「日本の各地域の価値を上げられるものを提供して受け入れてもらい、お金を落としていただく受け入れ方の構築が重要だ。つまり『”本物”を提供しましょう』ということ。全世界からの旅行者を意識して、地域の文化、歴史、伝統、食、自然などの資源を磨き、地域の価値づくりを推進する必要がある。そうすればインバウンドの方々は喜んで対価を払ってくれるはずだし、お金の循環が生まれれば地域の文化や伝統の継承、維持にもつながる」

 ――観光の課題について。

 「やはり人手不足が大きな課題。その解消には、識者の皆さんも言っているが、付加価値を、換言するなら粗利を増やすことが重要だと思う。そのためには各社関係の方々が稼ぐ力を付けなければならない。それができれば、賃金や給与に反映できる。働きがい、やりがい等も当然大切だが、やはり給与の増加が人手不足解消にとっての大きな一手だと思う」

 ――提供するサービスの高品質化が、旅行商品や宿泊の料金の適正な値上げの根拠になる。

 「宿泊業だと設備投資等により施設やサービスの水準を高められる。いわゆる高付加価値化で、観光庁も高付加価値化事業にしっかりと予算を付けているし、制度も充実している。高付加価値の宿泊やサービスを提供できれば、それ相応の対価をきちんといただく、というスタンスが大切。そして増えた売り上げを給与に反映させ、人材を確保、育成する。この循環が極めて重要だと感じる。そこにIT化、DX化の推進を併せて、業務の効率化、人件費の削減などが実現できればなお理想的だ」

 ――地域と、観光サービスの価値向上が必須である、と。

「観光庁も付加価値の構築、地域の価値向上に係る予算計上や政策立案に重点を置いている。それがサステナブルな観光にもつながり、各地域にも人が流れる」

 ――観光庁が「こうあってほしい」という姿は。

 「スポーツ庁や文化庁、経済産業省など、各省庁との連携をより強化してほしい。タッグを組んで各政策を推進してもらえれば、観光振興にもなる。職員の皆さんには、今後も前例にとらわれず柔軟に対応してほしいし、組織も柔軟であってほしい。設立してまだ15年の組織なのだから、チャレンジャーの姿勢で、変化が大きい観光の世界の中で挑戦し続けてほしい」

 くぼ・しげと 2013年に観光庁長官に就任。日本観光振興協会理事長、東京空港交通専務取締役などを歴任。

 
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