【観光立国復活への提言】日本観光・IR事業研究機構 副理事長 ツーリストシップ 理事 井手憲文 氏(第3代観光庁長官)に聞く


【観光立国復活への提言】日本観光・IR事業研究機構 副理事長 ツーリストショップ 理事 井出憲文 氏(第3代観光庁長官)

IR加速、富裕層対応向上  持続可能な旅行者も重要

 ――12~13年に観光庁長官を務めた。(聞き手・板津昌義)

 「思い出すのは特に11年3月の東日本大震災からの復興だ。この地震で11年のインバウンドは前年の800万人台から600万人台まで激減した。それを何とか戻していこうと、中国、韓国などの風評被害の払拭とアジアのビザ緩和等々の促進策に努めた。12年の秋の園遊会で天皇陛下、今の上皇陛下から『東北の観光の復興をお願いします』と直接励ましのお言葉をいただき、とても感激したことを覚えている。そして、13年にインバウンドは盛り返した上に大幅に伸び、小泉内閣の頃からずっと目標だった1千万人の大台を初めて超えた」

 ――これからの観光振興に向けて考えをお聞きしたい。

 「政府作成の新観光立国基本計画にもあるようにインバウンドは人数もさることながら、観光のクオリティをどう上げるか、来日客の消費額をどう上げるかが従来にも増して重点課題となっている。そこでこのために特に重要な三つのことを話したい」

 「政策として進めていかなければならないのが『IRの加速』だ。私は、一般社団法人『日本観光・IR事業研究機構』のお手伝いを長年やっている。IRは21世紀に入って議論が始まり、10年代後半に制度化された。これはシンガポールをモデルにしており、2000年代に観光が低迷したとき、当時のシンガポール政府がそれを打ち破るための一つの政策として打ち出したのがIRだ。同じ状況は今の日本にも言えるわけで、IRを観光の起爆剤としていこうとIR整備法ができたのだから、これからインバウンドをさらに伸ばし、クオリティや消費額を上げるというために、IRはかなり大きな効果をもたらす」

 ――IR推進の課題は。

 「大阪の夢洲が今一番進んでいるが、地盤改良の問題や建築費用の高騰などによって従来の計画よりも費用がかかり、着工への進み具合が遅いのが心配だ。実施協定の認可などいろいろな行政手続きがまだ残っているから、観光庁はそれに迅速に対応し、早く着工まで持っていってほしい。IRは最大で3カ所。長崎はペンディングだが、コロナ前は興味を持っていた地方自治体や事業者による検討が進んでいない。検討が促進されるよう観光庁では第2弾の募集をするという意思表示を早くしてほしい。スケジュールの詰めはその後でいい」

 ――二つ目は。

 「『持続可能な観光のための旅行者側の意識づけ』。観光立国推進基本計画の中でも大きなテーマだ。オーバーツーリズムは日本だけでなく、世界的に問題になっている。各地域や観光業界が取り組んでいくのももちろん大事だが、併せて、旅行者の側からオーバーツーリズムや環境対策といったSDGsに取り組むことが求められる。私は、旅行者がそのような行動をしようという運動をしている一般社団法人『ツーリストシップ』も今年からお手伝いしている。『ツーリストシップ』は、スポーツマンシップなどの言葉を参考にした造語で、SDGsの望ましい旅行者とはどういうものかよく考え、それを実際に行動に移すという意味だ」

 ――三つ目は。

 「『富裕層ツーリズムのレベルアップ』だ。これは、旅行者の消費額増大だが、それ以上にクオリティ・アップの意味がある。富裕層ツーリズムは私が観光庁長官時代に取り組み始めた。その時、旅行会社が、富裕層ツーリズムが何たるか分かっていないと感じた。観光業界、また観光庁も、富裕層は旅行中にどんなことをやって、どういうもてなしを受けているのか自腹を切ってでも体験してほしい」

 「観光庁の今の富裕層ツーリズム対策はモデル地域に対して支援を行うという方法だが、それでは効果は薄い。テーマについて対応すべきだ。テーマで大きい一つは宿泊だ。老舗の高級ホテルの他、外資系のラグジュアリーホテルができてきたが、例えば、雑居ビルの中にあって、狭い廊下、低い天井、貧相なロビーなど、ハード面が駄目だったり、レストランやコンシェルジュのサービスなどソフト面も残念ながらまだまだなものが散見される」

 いで・のりふみ 2012年に観光庁長官に就任。46都道府県、46カ国・地域を旅行。

 
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