【観光立国復活への提言】成田国際空港 代表取締役社長 田村明比古 氏(第5代観光庁長官)に聞く


成田国際空港 代表取締役社長 田村明比古 氏(第5代観光庁長官)

全省巻き込み政策推進 長期滞在、深い体験 課題

 ――第5代長官だが、特に印象に残っていることは。(聞き手・内井高弘)

 「『明日の日本を支える観光ビジョン』の決定のほか、国際観光旅客税法や住宅宿泊事業法など何本も法律を通したことだ。当時の安倍晋三首相、菅義偉官房長官が観光振興に非常に熱心だったこともあり、庁にとって仕事はやりやすかった」

 ――コロナ禍の影響は。
 
 「空港会社としては、旅客が激減し、飲食・物販の売り上げもダウン。会社創立以来、初めての赤字決算となった。ピンチをチャンスにではないが、昨年秋に、将来を見据えた『新しい成田空港構想検討会』を立ち上げ、今年3月に中間とりまとめを公表した」

 「コロナ禍にあっても、ワクチンや半導体装置の輸送など貨物の動きは非常に活発で、空港の持つ重要性というか、成田の強みを改めて再認識できた。半面、旅客ターミナルは国際線旅客が98%減という状況でも、航空会社のシステムの違いなどで、全てのターミナルを動かさなくてはいけなかった。柔軟性に欠けるという弱みも明らかになった。今後の方向を考える上で、コロナ禍は貴重な体験だったといえる」

 ――旅客は戻っているか。

 「一時は本当にオープンしているのかというぐらい閑散としていた。いまは国際旅客に限って言えばコロナ前の7割ほどだが、インバウンドは9割まで戻ってきている。また、8月のリテールの売上高はコロナ前を超えている。航空需要が完全に戻るのは24、25年ごろといわれているが、今後もインバウンドはかなり増えてくるだろう」

 ――日本人の海外旅行は。

 「戻りは遅く、8月で5割ほど。円安や航空運賃の割高感などがネックのようだ。それでも若い方は戻っているが、中高年はそうでもなく、概して海外旅行に対して慎重になっている」

 ――日本の観光をどう捉えているか。

 「観光で成功している国を見ると、長期滞在に耐えられ、自然の中でのアクティビティのメニューが多く、文化を楽しめ、もう一歩踏み込んだディープな体験ができ、それをちゃんと解説付きで提供できている。そこが日本はまだ十分ではない」

 ――インバウンドが増えると必ずオーバーツーリズムの問題が出てくる。政府も本腰を入れるようだが。

 「海外では中心街のホテル建設は認めない、人数を制限する、施設は予約制にするなど、さまざまな手を打っている。それを参考にするのもいい。まずは現場である自治体が諸施策に取り組み、政府はそれを制度面や資金面で後押しするのがよいのではないか」

 ――観光庁を「省」に格上げしてもいいのでは。

 「観光政策は全省庁に関わりがあるため、例えば内閣の中で、首相をはじめとするリーダーの方々にご指導いただき、全省庁を巻き込んで話を進めていくことが重要だと思う。省にするかどうかについてはあまり重要性を感じない」

 「全省庁と言ったが、防衛省や宮内庁も観光行政と関わりがある。例えば防衛省が管制を行う空港は、便数を増やすにしても、防衛省に協力してもらわなければ増やせない」

 ――成田空港は今年開港45周年になる。島国の日本にとって成田の果たす役割は非常に大きい。一方で、羽田も国際化に踏み出しており、成田とどう棲み分けていくのか。

 「国内外のお客さまが使いやすく、快適で、かつ安全に利用できるのが大前提で、観光立国に欠かせないという自負もある。空港機能がマヒすればその影響は広範囲に及ぶ。世界を見ても主要都市では一つの空港で需要をまかなっているのではなく、ニューヨークやロンドン、パリなどは3、4カ所ある。複数の空港がフル活用されているのが常識だ」

 「成田、羽田それぞれ特徴がある。成田は拡張性があることが強みである。それぞれが強みを生かし、発展していかないと日本は繁栄しない。それぞれが使い勝手のいい空港になることが観光のためにもなる」

 たむら・あきひこ 東大法卒、1980年運輸省(現・国土交通省)入省。航空局長などを経て、2015年観光庁長官就任。国土交通省参与、三井住友銀行顧問を経て、19年から現職。

 
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